言葉の乱れはいつの世にもありますし、最近ではネット上での誤用が誤用を生み、「ふいんき」や「うる覚え」などの新語(?)、さらには某ちゃんねる語なども発生しています。「~のほう」といったコンビニ語も相変わらず猖獗を極めています。
ひとりでぼやいていても仕方がないのですが、最近「一応」という台詞が氾濫しているようで、気になって仕方がありません。
【事例1】(職場で部下が上司に)
「例の件、一応報告書に纏めておきました」
(給料もらっているなら必要な仕事以外はして欲しくないんだけど・・・)
【事例2】(家具を買ったとき)
「これ、一応保証書になっております」
(どんな保証?効力あるの?)
【事例3】(スポーツクラブ退会時に)
「内規では一応来月までの利用料をいただくことになっています」
(一応の利用料など払えるか!)
エトセトラ、エトセトラ。
おそらく皆さん殆ど「意味無しフレーズ」として無意識に使っているのでしょうが、私はその中に「無意識の責任転嫁」を感じてしまいます。
「いらないだろうけど取りあえず報告しておけば何かあっても叱責されない」
「一言言っておく、あるいは着手したポーズをとっておけば万一の場合でも言い訳できる」
といった感じがして仕方がないのです。
さて、質問は以下のとおりです。
1.皆さんは身の回りでこのような「一応病」の症状をご覧になったことがおありでしょうか。
2.おありの場合、どのように思われましたでしょうか。
言葉について自ら考えるための参考にできればと存じますので、当然当方の考えと異なるご回答も歓迎です。
お忙しいところ恐縮ですが、「一応」ご回答いただければ幸いです(・・・・・)
No.5ベストアンサー
- 回答日時:
『あいまい語辞典』(芳賀綏、佐々木瑞枝、門倉正美著 東京堂出版)によると、「一応」の項目には三つの用例が載っています。
【1】動作とは裏腹な心の動きが「一応」にこめられている場合
例文としてあげられているのが、こんな使われ方です。
社内の飲酒運転の常習犯。誰かが注意しなくてはならないのですが、みんなそんなことはやりたくない。忠告役を押しつけられて「一応言うだけは言っておきましょう」
この場合の「一応」は、「することはするが効果は期待できない」といった意味合いがある、と本には載っているのですが、むしろ、効果は期待しないでね、とまわりに対してあらかじめ弁解しているような印象がありますね。
同じような使われ方として、「一応頼んでみる」「一応薬を飲んでおく」などの例があげられています。
【2】自然現象に対して用いられる場合
「吹雪も一応おさまった」「ひどい腫れも一応とれたし…」のように、人間の意志の力ではどうにもならないことに対して、「いまのところは一応大丈夫なようだけど」と「一応」に、「再発・再燃・再来」の可能性をこめている、とされています。
【3】自分の意志がこめられている場合
「いつライセンスがとれるかわかりませんが、一応試験を受けてみます」
この「一応」には、「だめでも次にまた受けるのだ」という自分の意志が背後にある、とあります。
確かに、だめかもしれないけれど、という否定的な気持ちはあるけれど(あらかじめ言い訳している?)それでもやるんだ、という意志がこめられている「一応」といえそうです。
こうやって見てみると、いま使われている用法が、かならずしも「意味無しフレーズ」ではないような気がします。
質問者さんがあげられた実例1では、(期待に添うものかどうかはわからないけれど)という気持ちが、実例2では、(家電って保証書の期限が切れたころに壊れるものだし、お客様の方だって取っておかない人も多いし、あげたって役に立つかどうかはアタシにはわかんないんだけど)という気持ちが、実例3では(退会するっていうのに、来月までの利用料なんてもらっちゃうのは悪いんだけど、規則だから許してね)という気持ちが、おそらくそうはっきりとは意識されないまま、こめられているのだと思うのです(あくまでも私個人の想像ですが)。
そもそも日本語というのは、曖昧さを含んだものとされてきました。言葉によるコミュニケーションよりも、人と人の間に醸し出される曖昧な雰囲気を通じて理解が成立するのを、尊んできた歴史があると思います。
確かにいま、口語として日常的に使われている言葉には、通常の言語感覚を持っている人なら誰でも、眉をひそめたくなるような用法は少なからずあります。
以前いきなり「アタシって、日本語方面弱かったりするじゃないですか」と言われて、大変にとまどった経験があるのですが、よくよく聞いてみれば、「自分のことを誤解してほしくない」ということだった。けれども、奇妙に見える語法のベクトルは、決して昔からのものと違う方向をさしてはいないと思うのです。
したがって回答としては、
1.「一応」は確かに頻出するあいまい語で、必要性があって使用されているわけではないと感じられる場合、また適切に使用されていない場合も多くあるけれども、「一応病」とは理解していない。
2.「一応」と言われたら、こちらも「一応」聞いておく(意味は上記1~3のいずれの場合もあると思います)。
言葉の誤用を指摘する人は多いし、それを集めた本も多くあります。けれども、私自身はそうした本をおもしろいと思ったことはありません。書き手の側に誤用を指摘する以上の内実を感じられないことが多いからです(これは質問者さんに対する批判の意図はありません。あくまで念頭にあるのは、あまた出版されている、日本語の誤用を声高に叫ぶ人たちです)。
私が好きな作家の一人にリービ英雄という人がいます。1950年アメリカに生まれ、アメリカの大学で教授職にあって『日本書紀』などを教えたのち、日本に来て日本語で小説を書いている人です。
この人が「日本語は美しいから、ぼくも日本語で書きたくなった」というとき、その視点は決してオリエンタリズム的な、ラフカディオ・ハーン的なものではありません。
日本語を母語としない人がいう「美しい日本語」、事実、リービ英雄が書く日本語を私は大変美しいと思うのですが、同時に、これに対峙しうる内実を、私の「日本語」は持っているのか。私はいつもそのことを考えずにはいられません。
ここまで言うとあまりに個人的な問題意識で、ご質問とは離れたものになってしまいました。申し訳ありませんでした。
>奇妙に見える語法のベクトルは、決して昔からのものと違う方向をさしてはいない
うーむ深い・・・
誤用とされているものにはそれなりの理由があるケースが多いのは確かと思います。「さざんか」がよくて「ふいんき」がいけないというのは「誤用が慣用になるだけの時間が経過していない」ため、ただそれのみに過ぎないのかもしれません。
ただ、ちゃんねる語を始め「わかればいいじゃん」、さらには誤用を意図的に行い、理解しない人を馬鹿にするような風潮には眉を顰めざるを得ません。仲間内だけで通じる符丁を使って楽しむのはジャズメンや大学のサークルなどでも以前からありましたが、ネットの世界は遥かに影響大です。自分から誤用を積極的に論うことはしませんが、やはり必要に応じて誤りは指摘していきたいと考えます(誤りが主流になり、社会に認められて言葉が変化していくことは当然あることですし、それを否定するものではありません。念のため)
「一応」の用例3種も興味深く拝見しました。確かに曖昧コミュニケーションは我々日本人になじんだものではありますが、やや大げさになることを顧みず申し上げますと、かつては思い遣りの曖昧さのバックボーンとして存在した職場や地域社会における矜持や暗黙知が霧散し、自己責任を曖昧にする手法だけが残っているのではないか、というのが私の懸念の出発点でした。相次ぐ工場、製油所、製鉄所の事故を見ていると勿論それだけが原因であるわけはないのですが、みんな責任もって仕事をしているのか不安にさえなります。
ともあれ私の気づいていなかったご卓見をご開陳いただきありがとうございました。締め切ろうかと思っておりましたが、他にも貴重なご回答がいただけるかもしれませんので、もう少しあけておきたいと思います。
No.8
- 回答日時:
夏目漱石の『吾が輩は猫である』で
「一応」を探してみました。(遊び半分)
なぜ『猫』なのか。理由は、
私が好きだから、有名作品だから、
語り口が軽いから結構ありそう、
青空文庫のテキストで語句の検索ができるから、です。
◎すでに一応感服したものだから、もうやめにするかと思うとやはり横から見たり、竪から見たりしている。
◎説明してやりたいが到底分る奴ではないから、まず一応の挨拶をして出来得る限り早く御免蒙るに若くはないと決心した。
◎君から今一応本人の性行学才等をよく聞いて貰いたいて
◎下女が更紗の座布団を床の前へ直して、どうぞこれへと引き下がった、跡で、鈴木君は一応室内を見廻わす。
◎なぜと云う質問が出れば、今一応考え直して見なければならん。
◎うん、そりゃ一応もっともな質問だよ。
◎さて吾輩の運動はいかなる種類の運動かと不審を抱く者があるかも知れんから一応説明しようと思う。
◎挨拶さえ碌には出来ない。一応頭をさげて
◎はたきを一通り障子へかけて、箒を一応畳の上へ滑らせる。
◎主人は一応この三女子の顔を公平に見渡した。
◎細君はもう一応協商を始める。
文豪が使っているからいいじゃないか、
と開き直るつもりはありません。
ただ、日常語としては結構昔から使われていたのではないか。
少なくとも私自身の印象として、
最近になって急に増えたとは思いません。
ビジネスの場、公的な場などで多用して欲しくない、
というのはその通りだと思います。
でも、たとえば事例2。
これが安物、いや普通の家具だったら、私はあまり腹が立たない。
けれども、高級家具店で、
ウン十万円だか、ウン百万円だかの家具を
買った時だったら言われたくない。(私はそんなもの買いませんが)
そんなところです。
事例1、事例3については#5さんの説明に納得です。
私は言葉の誤用を指摘するような本を
自分のことは棚に上げて、結構喜んで読むことがありますが、
「一応」という言葉はそれほど気にしていません。
…と、これを投稿しようと思っていたら、
#7の回答が書き込まれました。
「この回答は参考になった」ボタンを思わず押してしまいました。
とりとめもなく。
この回答への補足
回答者の皆様、ご回答ありがとうございました。自分では気づかぬ視点も多く、大変参考になりました。
最近は管理者チェックも厳しい昨今ですが、本件が削除対象とならぬことを祈るや切です。どれも私にとっては貴重なアドバイスである、折角のご回答が闇に葬られぬよう祈念したいと思います。
毎度のことですが、良回答はやむをえず独断でつけさせていただきました。しかしながら、主観的にはすべて良回答である旨申し添えます。
最後に改めてご回答者の皆様に一応感謝申し上げ、本質問を一応締め切ることといたします。
(妄言深謝)
興味深い試みですね。
ご指摘の事例を見ると、むしろ「一応」の利用例は今より多様かもしれません(「細君はもう一応協商を始める。」など「とりあえず」に近いニュアンスですが、現代の用法とは少し異なる感じです).
>ビジネスの場、公的な場などで多用して欲しくない
がボトムラインで、その許容度にかなり個人差がある、ということかもしれませんね(私は許容度が極めて小さいようです)
今朝新聞を見ていると、「燃焼系」「キムタク系」といった「○○系」という言葉について解説がありました.言語学者によると、こうした使い方は「断定を避け、他人が受け入れやすくなる効果がある」とのことで、自分でも興味深いことにこちらには「一応」ほどの心理的抵抗はありません.ビジネスや商品販売の局面で使われていないからでしょうか。さりとて、家具屋の店頭で
「私ってぇ~、天然系だからさぁ、保証書ってよくわかんないのぉ☆」
とやられたらぶっとびますが…
ご回答ありがとうございました.
No.7
- 回答日時:
私にはこれらの「一応」は、柔軟であるべき人間関係に硬く形式ばったものを持ち込むことに対するエクスキューズのように感じられます。
事例2で考えてみるとわかりやすいと思います。本来というか理想的な商関係としては、店側が顧客をいちいち記憶していて、「当店が販売したものは責任をもって修理致します」という態度を取ることでしょう。あくまでも常識的な範囲においてですけれども、お互いの信頼関係を前提に、時期や内容についてあまり固いことを言わずにある程度の幅のなかでクレームを処理することが、日本のいわゆる潤滑な関係の理想だからです。
しかし、保証書というのは形式的で厳格ですから、逆に言えば、それは“保証期間を一日でも過ぎればその対象にならない”、という排除を保証(?)している、という言い方もできるでしょう。日本人はどうもこういう形式が苦手で、本質的にはあまり受け入れていないところがあるわけです。少なくとも、こういう関係がベストだとは感じていない人達は、恐らく売り手にも買い手にもまだたくさんいるはずです。
売り手がこういう感覚を持った人であれば、保証書を堂々と自信をもって出すことに一抹の躊躇を感じることでしょう。なぜなら、それはひょっとすると、「この保証書がないとうちで売ったものとは認めない」とか、「保証期限を一日でも過ぎれば法的に義務はありません」といった、極めて“水くさい”関係を実践しているかのような印象を与えかねないからです。
ですから、店員にとっては“一応の”保証書を出す、というのでなく、保証書という理想の商関係からみればとても水臭いしろものを、“一応お出ししておきます”という心情があるわけです。つまりそこには言外に、あんまり固いことを言わずにうちは対応させて頂きますよ、というニュアンスがあります。ここでの「一応」は、従って、柔らかい人間関係に堅苦しい基準を持ち込む際の、一種の緩衝材としての意味があると言えるでしょう。
事例3も、規約を“堅苦しく”適用しようとする際のはなしですから、同じようにこの意味のエクスキューズとして用いられているのだと思います。
事例1は少し違って、個人的には#4のご回答にあるような「謙譲」のニュアンスを感じます。恐らく上司・部下双方が共に立ち会った場面での経過を報告書に取りまとめるわけですから、その内容についてははもちろん上司も(あるいは往々にして上司の方が)既に通じているわけです。それを部下があたかも万般に知悉しているかのごとく報告書をまとめるということは、職務上とは言え僭越な行為と言えなくもありません。立場上とりまとめたけれども十分なものではない、ご高覧を仰ぐ必要がある、というニュアンスがこの“一応”の報告書、という表現に込められているのではないでしょうか。
以上、挙げられた「一応」は、決して何かを曖昧にしようとしているのではなくて、ある人間関係のなかでは有効に解釈され得る、意味のある言葉だと思います。それが今の時代にあうのかどうか、理解できる人が多数なのかどうか、というのはまた別のはなしですが。
>柔軟であるべき人間関係に硬く形式ばったものを持ち込むことに対するエクスキューズ
「なるほど」と納得する私と「でも…」と考え込む私がいます.
私はかつて「ソクラテス」と呼ばれたことがあります.勿論悪口で、「杓子定規で融通が利かず、規則だといわれれば喜んで毒杯を仰ぐ奴」との謂です。生来の性格に法学部卒、海外経験8年とこの傾向は増幅され、主観的基準は世間一般とはかなりずれているかもしれません.
しかしながら、一方で
>今の時代にあうのかどうか、理解できる人が多数なのかどうか
についてはやはり気になるところです.以前ほどの等質性を日本社会は失いつつあり、「やさしい曖昧さ」はそれのみでは逆に有害となる局面も増えていると思います.少なくとも直接はそのような曖昧さを理解しないであろう外国人に対してはむしろ仇となり、紛議の種となることもしばしばです.日本人でも社会の複雑化に伴って普遍的になりつつあるマニュアル化の中で「言わねばわからない」類の人は老若を問わず急増しており、「はっきりいわないこと」がコミュニケーション上の障害となるケースも増えていると考えています(勿論それが全てではありませんし、柔らかなコミュニケーションの有用性を認めるに吝かではありません.ただ、局面を考えず多用するのは如何か(特にビジネスの絡む局面や対顧客折衝で用いるのは無責任な対応ではないのか)との思いがありそれが私の不快感につながっていると思います)
自分の気がつかない点にたいするご意見は大変有用であり、改めて考える好機と考えます.本質問を立ち上げた趣旨に沿うものであり、感謝いたします.
No.6
- 回答日時:
すいません、訂正です。
一応推敲はしたつもりなんですが、二点ほど、間違っているのに気がつきました。
第5パラグラフ、実例2、質問者さんは家具を実例であげていらっしゃったのですね。無意識に家電と読んでしまっていました。うーん、家具に置き換えて通じるかな。
第9パラグラフ、
>日本語の誤用を声高に叫ぶ人たちです
誤用を声高に叫んじゃいけませんね、「声高に批判する」ですね。
以上、お詫びして訂正いたします。
No.3
- 回答日時:
1、あり
2、曖昧症候群の一例ですね。
曖昧症候群、とは(用語自体はちがうかもしれないですが)
言葉を曖昧な表現にする事で、気楽になろうと言うものですね。
例えば、私が良く使ってしまうのが「とりあえず」なのですが、
これも「一応」と似ています。
ここまで書いていて「かもしれない」と言うのもありますが
これも一例です。
いわれたからやっている、に代表されるように、今は
本質を知らずに(知らされずに)物事を行う事が多くなっていますので
仕方がないのかもしれないですね。
知らないのに責任は取れませんから(仕事で上司にこう言ってしまった事もありますが…(苦笑))
「曖昧症候群」とは初めて聞く用語ですが、ニュアンスは良くわかります。
責任を取りたくないのは人の常で、私もYES、NOを直ちに言わないことはありますが、少なくともビジネスの世界(顧客との折衝を含む)では旗幟を鮮明にしない理由(あるいはどうすればYES、NOが明白にできるかの条件・・・事の本質の知不知も当然含む)を明らかにするように心がけています(言うは易く行なうは難しですが)
ご回答ありがとうございました。
No.2
- 回答日時:
1.あります。
(私自身が使っているかも)
2.「一応」には、
〔本来は「一往」〕十分といえないがとりあえず。ひとまず。ともかく。ひと通り。〔goo国語辞典〕
という意味がありますよね。
意味なく使うというよりも、この“十分とは言えないが”というところに多用される理由があるのではないかと思います。内容が不足していても「一応」という言葉を足しておくだけで、後での処理を可能にしたり、その言葉にかかってくる責任を薄くすることができたりするのです。
責任転嫁というよりも、責任逃れというほうが正しいかもしれません(笑)
>責任逃れというほうが正しいかもしれません
おっしゃるとおりだと思います。
不思議なもので、「とりあえず」といわれると「一応」ほどの不快感はありません。「とりあえず」のほうが応急措置である点を明示している(緊急時対応であり落ち着いたところで補足する)ニュアンスがありますが、「一応」はなにもなければそのままおざなりの対応のままうやむやにされそうな感じです。
ご回答ありがとうございました。
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