■まずは公的制度の確認を
住宅ローンがあるのに、夫が認知症になったら、妻は冷静ではいられないだろう。何からどう対処すべきか。
「まずは収入減を補う経済的支援を考え、公的制度を探しましょう。受けられる支援はすべて利用できるようご主人のご体況をきちんと把握し、お住まいの自治体の福祉窓口をはじめ、年金事務所(厚生年金加入歴がある場合)や、住所地の市区町村役場(国民年金のみの場合)、通院中の医療機関内に常駐する医療ケースワーカーなどに相談してみてください」(海老原さん)
公的にはどのような経済的支援が受けられるのだろうか。
「初診日に厚生年金に加入していたサラリーマンは、医師の診断書や申立書などを揃えれば『障害基礎年金』や『障害厚生年金』(自営業者は『障害基礎年金』のみ)が受給できる可能性があります。『障害厚生年金』1級・2級に該当するご体況であれば、配偶者加算や一定要件を満たす子の加算もあります。ご主人が40歳以上であれば、介護保険の要介護認定が受けられるかもしれません」(海老原さん)
必要書類の整備は専門的なものが多いが、最大限の恩恵を受けるため前向きに行いたい。
「他にも、通院医療費が軽減される自立支援医療制度(精神通院医療)が利用できる場合があります。『精神障害者保健福祉手帳(障害者手帳)』を取得すると、公共料金等の割引やNHK受信料の減免、所得税・住民税の控除などが受けられます」(海老原さん)
このような手続きは、すぐに申請したとしても完了までに時間がかかることが多い。一時的な生活資金の借り入れ(生活福祉資金貸付制度)なども調べておくと安心かもしれない。
■早めの対処が大切
住宅ローンの返済が、経済的支援などでは補いきれない場合はどうすべきか。
「団信の保障内容である『高度障害状態』にあたるかどうかを保険会社に問合せてみましょう。民間の死亡保険や介護保険に加入している人は、加入する保険の保障内容も確認してください。いずれも適用されない場合は、金融機関に現状を話し、返済計画について相談しましょう」(海老原さん)
一度延滞してしまうとその後の交渉が難しくなるため、早めに担当者に連絡するのがよいとのこと。
「家を売却することで残債がなくなる場合などは、持ち家を売却してローン返済をなくし、親族宅などにしばらく住まわせてもらうことも視野に入れてみてはいかがでしょうか。お住まいのエリアに住み続けたい場合は、手すりやスロープなど障害者の生活に配慮した公営住宅の空きがあるかもしれませんので、自治体に相談してみましょう」(海老原さん)
引っ越し先の段取りもある。様態もよく考慮したうえで売却や引越しを考えよう。
■周囲の力を借りて
経済的支援や家計支出の抑制と並行して、将来的な世帯収入の確保も重要だ。
「妻にとって介護や家事と仕事の両立は相当な負担です。子育て中ならファミリーサポートを利用し、通院中はお子さんを預かってもらうなど、他の人の手を借りながら仕事を続ければ長い目で家計が安定します。ご主人についてもお勤め先を退職される前に、どの程度だったら就労を続けられるか相談し、少しでも収入を確保することを模索してください。ひとりで抱え込まず、早めに自治体や認知症をサポートするNPO、家族会など、外部機関と繋がりましょう。早めに支援を受けられれば、心身の負担も軽くなりますよ」(海老原さん)
今回の海老原さんのお話に励まされた人も多いだろう。遠くの親戚より近くの他人ともいう。困ったときは積極的に助けを求める勇気を持とう。
●専門家プロフィール:海老原 政子
ファイナンシャルプランナー。エムプランニング代表。子供を持つ母親として、「主婦の目線でやさしく家計の悩みを解決」をモットーに、相談者の家計管理や住宅購入予算、教育資金、今後の働き方などの悩みに寄り添う。