
しかし、「パブリックコメント制度」は、個人の意見が行政の意思決定に影響を与えうる、制度化された唯一の仕組みと言える。この制度の重要性や私たちにできることについて、弁護士の視点から解説する。
■パブリックコメント制度とは
パブリックコメント制度について、富士見坂法律事務所の井上義之弁護士に話を聞いてきた。
「国の行政機関では、様々な政策を実施していますが、こうした政策の実施にあたっては、政策に応じて政令や省令などを定めています。『パブリックコメント制度(以下、パブコメ)』は、政令や省令などを決める際に、予めその案を公表して、広く一般から意見や情報を集める制度です。国の行政機関では、こうして集められた意見や情報を考慮して、政策実施に活用しており、行政運営の公正さの確保や透明性の向上、国民の権利利益の保護に役立てることを目的としています」(井上義之弁護士)
自分の行動が政治に影響を与えるかもしれないという点では、選挙における投票行動と同じ価値があると言っても過言ではないだろう。
■パブコメの具体例:原付免許で125cc
パブコメの対象となるような案件の具体例を聞いてみた。
「パブコメの対象となる案件は、生活に身近なものから、国の基本方針にかかわるものまで、本当に多岐にわたります。例えば、身近な例としては、原付免許で、特定の125CCのバイクに乗ることができる道路交通法施行規則の改正について、パブコメによって500件を超える意見が寄せられました。これらの意見の中には、改正案に賛成する意見のほか、技能試験のない原付免許で運転できるようになることの危険性を指摘する意見なども出されています。また、出された意見なども踏まえて、これまでの原付免許で運転できる125CCバイクについてナンバープレートで区別することを検討することなどが表明されています」(井上義之弁護士)
■パブコメの具体例:東京都文京区のケース
「地方自治体もパブコメを実施しています。例えば、東京都文京区では、地域防災計画についてのパブコメで、地震に備えての水、食糧、トイレの備蓄についての意見が出されたり、子育て支援計画についてのパブコメで、放課後の居場所づくりや幼稚園の延長保育などの意見が出されています。そして、こうした意見に対して、文京区では、意見に対する検討内容を回答するだけでなく、意見を取り入れて、実際に計画などを見直しています」(井上義之弁護士)
■パブコメは誰でも利用可能
パブコメは誰でも利用可能と考えていいのだろうか。課題なども併せて聞いてみた。
「パブコメは、基本的に、個人・法人を問わず誰でも意見を出せる制度です。どんな意見があったのか、どのように考慮して反映したのか、または、しなかったのか、という結果についても公示されることになっています。課題としては、AIで生成したとみられる類似の意見が大量に投稿されることがあるようです。これにより本来政策に反映されるべきであった意見が埋もれてしまう等の懸念があります」(井上義之弁護士)
専門家プロフィール:弁護士 井上義之 事務所HP ブログ
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ライター o4o7
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