■代替要員を雇い入れても会社側の懐は痛まない
まず、気になるのは法律の問題。法律では、どのようになっているのだろうか?
「たとえば学校の先生が産休・育休を取るときには代替教員を採用することになっていますが、一般の会社では代替要員を雇わなくても法律上は問題ありません」(服部さん)
となると、代替要員を入れないのは会社側の経営上の問題かもしれない。
「どうなのでしょう……。実際に会社は産休、育休中の従業員の給与を払う義務はありませんし、健康保険、厚生年金保険などの社会保険料の支払いも免除されます。代替要員を雇い入れても、それ以前よりも給与や社会保険料の負担は抑えられるはずで、代替要員を雇わないのは、もしかしたら、事業主の認識不足があるのかもしれません。はじめから『そういう制度は大企業のやること。うちみたいな小さい会社では無理』と決めてかかっていることもあるでしょう。もしくは、単に『考えるのが面倒』というケースもあるかもしれません」(服部さん)
ちなみに産休、育休中の従業員が受けられる給付の出どころを聞いてみた。
「それは健康保険や雇用保険から支給されます。つまり、会社の懐が痛むわけではないということです」(服部さん)
会社が代わりの要因を雇い入れる努力をしていても、昨今の人材不足が影響している可能性も考えられる。
■会社は国からの助成金が得られることも
では、既存メンバーのことを考慮し、会社としてすべきことはなんなのだろう。
「代替要員を確保したとしても、産休、育休をとる社員がそれまでに担っていた仕事を質、量ともに遜色なくこなすのは難しいでしょう。従って、産休・育休をとる社員が行っていた業務内容を見直し、効率化を図ることが第一でしょうね。たとえば、『必要性の低い業務を休止または廃止する』、『作業手順や作業工程を見直して業務量を削減する』、『誰でも対応しやすくなるように作業手順のマニュアル化を図る』といった具合です」(服部さん)
普段から欠員が出た場合の対策をしっかりと考えていればよいが、一般的には既存メンバーの負担が増すことは避けられなさそうだが……。
「そうかもしれません。ただ、育休については、中小事業主を対象とした助成金(両立支援助成金育児休業等支援コース)があります。これは、育休の円滑な取得と、その後の復職を支援する制度で、一定の条件を満たすと助成金が加算されるものです」(服部さん)
この制度を利用すると、会社の経済的な負担増を抑えながら、代替業務を引き受ける従業員の給与を増やすことができるという。代替要員の確保を会社に相談したい人は、この制度のことを持ち出してみてもいいかもしれない。
■「お互いさま」と「おかげさま」が大切なキーワード
産休、育休に関しては、公的なサポートがいろいろとあることがわかった。そこで服部さんは、そんな職場環境を円滑にする合言葉を教えてくれた。
「私はメンタル面を考えた職場環境の改善が大切だと考えています。人間関係のトラブルの多くは、『お互いさま』と『おかげさま』の合言葉で解決できます。産休、育休をとる社員の仕事を引き継ぐ人の中には、『私は子どもができたら仕事を辞めて家庭に入るから迷惑をかけない』と思っている人もいるでしょう。しかし、そのときになったら『もっと仕事をしたい』と思うかもしれません。パートナーの状況次第で仕事を続けざるをえなくなることもあります。子どもを持たない人や子育てを終えている人も、家族の介護や自分自身が病気になり、長期間、仕事を休まなければならなくなる可能性も否定できません。ようするに『明日は我が身、お互いさま』なのです」(服部さん)
権利だから当然という態度ではなく、「おかげさまで、安心して出産、育児にのぞめます」という気持ちを示すことが大事である。
最後に服部さんは「それ以前に、困ったときに職場の仲間に気持ちよく協力してもらえるか否かは、日頃からの働き方(姿勢)次第であることはいうまでもありません」という言葉で締めくくった。産休、育休に関わらず、いざというときのためにも、普段から周りの人への気配りは大切ということだ。
なお、教えて!gooウォッチでは育児中のママが仕事をやむなく休んだ時、職場での心証が悪くなる人とならない人の違いという記事も公開中。気になる方は併せてチェックしてみて。
●専門家プロフィール:服部 明美
社会保険労務士・産業カウンセラー。短大卒業後、広告デザイン会社を経て、社会保障分野の出版社に編集者として22年間勤務。2006年に社会保険労務士を取得して独立。2009年に社労士はっとりコンサルティングオフィスを開業する。二児の母。