土地と建物をそれぞれどのように評価するべきか。これは当事者間は勿論のこと、国税としても、その評価によって大きく税収が変わるため無視できないわけだが、そんな中、5月30日に土地と建物を一括で譲渡する際の按分方法について、重大な判決が下された。今回はその判決の概要や今後の影響を元国税調査官の松嶋洋税理士に聞いてみた。
■合理的な按分とは
不動産のリフォームや販売を行う株式会社カチタス(東証プライム上場 8919)は令和2年4月に関東信越国税局から消費税等の更正処分及び加算税の賦課決定処分を受けた。これに対して同社は提訴したが、同社の控訴を棄却する東京高裁判決が5月30日に下された。それを受けて、同社は最高裁に上告受理申立てを行うことを6月11日に公表した。
「土地については消費税が非課税である反面、建物については消費税が課税されますので、これらを一括で譲渡した場合にはその対価を区分する必要があります。消費税法上、土地建物の一括譲渡の場合には、時価や原価の比で合理的に区分することとされています。しかし、実務では合理的な区分とは言えなくとも、契約書で内訳を書いておけばその区分を税務署は従来は原則として認めていました」(元国税調査官・松嶋洋税理士)
土地と建物を一括で譲渡する際、これまではそれぞれの内訳さえ明記されていれば、お咎めはなかったという。
「理由は簡単で、売主の消費税は買主が控除する消費税ですので、両者をトータルで見れば税収は変わらないからです。現状の最高裁の事件は、この実務を税務署が問題視したものです。原告企業の土地建物の一括譲渡に係る按分が合理的ではないとして、多額の消費税を追徴して争われています」(元国税調査官・松嶋洋税理士)
詳しくは株式会社カチタスが発表した決算説明資料PDF(11P)を御覧頂きたい。
■最高裁で国税が勝訴した場合の影響
もしも最高裁でも国税の主張が認められた場合、どのような影響があるのだろうか。
「時価に比して建物の価格を小さくした金額を契約書に明記するといった手法で、消費税を節税する納税者はかなり多くいます。国税が勝訴すれば従来の実務が認められないことになり、土地建物の一括譲渡をした場合、合理的に区分がされていないとして、消費税を追徴されるケースが増える可能性があります」(元国税調査官・松嶋洋税理士)
合理的な区分かどうかの基準はどのように考えればいいのだろう。
「ここでいう合理的な区分ですが、判例上は固定資産税評価額による按分が妥当とされることが多いです。なぜなら、公的機関の不動産評価であり、同一の地方公共団体の評価だからです。譲渡に備えて自己の土地建物の固定資産税評価額は予め押さえておくとともに、譲渡時の按分はこの金額による按分額と大差がないか、確認する必要があります」(元国税調査官・松嶋洋税理士)
同社は上告受理申立をしているが、それが受理決定されてから判決までに1年程度はかかるという。また上告が受理されない可能性もあるとのことで、その場合は半年程度に結論が出るという。まずは続報を待ちたい。
●専門家プロフィール:元国税調査官・税理士 松嶋洋 税務調査対策ドットコム Twitter Facebook
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。現在の専門は元国税調査官の税理士として税務調査のピンチヒッターと税務訴訟の補佐。税法に関する著書、講演、取材実績多数。
記事提供:ライター o4o7/株式会社MeLMAX
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