■さまざまな弊害とスマホ認知症
スマホの使いすぎによる弊害は複数あるという。深く生活に関わるものとして、「睡眠の質」と「記憶力、集中力」の低下が挙げられるそうだ。
「スマホから発せられるブルーライトは、目の奥まで届く非常に強い光で、浴びると体内時計を調整するメラトニンというホルモンが抑制されます。本来は、夜になるとメラトニンが出て眠くなりますが、夜にブルーライトを浴びるとメラトニンの分泌が抑制され、眠気を感じにくくなるのです」(糸山さん)
コンテンツ自体からの刺激も、睡眠に悪影響であることは言うまでもない。
「アダルト動画や暴力的な動画、ホラー映像、テンションが上がる音楽、大好きなアイドルのSNS投稿など、私達を刺激するコンテンツは多く配信されています。刺激的な情報を目にすると、“昼の神経”と呼ばれる交感神経が優位になり、心拍数が上がったり発汗量が増えたりと身体が活発に活動する状態になります。そうなると、なかなか寝つけなくなってしまいます」(糸山さん)
記憶力や集中力の低下は、情報の過剰摂取により引き起こされるそう。
「スマホが普及し、数十年前とは比べ物にならないほどの情報量を浴びるようになりました。脳の前頭前野が情報処理できなくなってしまうと、記憶力や集中力が低下します。人の名前を思い出せない、友達との約束を忘れてしまうといった症状が表れることから、『スマホ認知症』という言葉も生まれました」(糸山さん)
脳の中が、“たくさんのモノに溢れ、整理できなくなることで、認知症のような症状が生じるようだ。子どもへの悪影響も少なくない。
「特に、0~3歳の乳幼児期への弊害は多いです。あらゆる機能や能力が発達しはじめるこの時期に、長時間スマホを使用して平面のスクリーンばかり見せていると、視力の低下に繋がります。加えて、手足を動かし、ハイハイができるようになり、立つ、歩く、ジャンプするなど、身体的にできることが増えていくこの時期に、体を使った遊びをせずスマホばかり見せてしまうと、運動能力の発達に遅れが生じます」(糸山さん)
大人にとっても子どもにとっても、深刻な弊害ばかりだ。
■上手にデジタルデトックスするには
いずれの症状も、スマホとの付き合い方を見直すことで改善できるという。それには、「置き換えの行動」を用意するのがコツと糸山さんは続けた。
「スマホを使わない時間に何をするか決めないと、結局暇になってしまいスマホに手が伸びてしまいます。ストレッチや散歩、ランニング、筋トレといった健康のための時間や、読書、勉強といった自己研鑽の時間、食事や談笑といった家族との時間もいいですね。置き換えられることはたくさんあります。いきなりスマホの時間を減らそうとするのではなく、空いた時間で何をするか考えてみてください」(糸山さん)
子どもはスマホ以外に熱中できるものを探し、親も一緒に楽しむとよいようだ。
「子どもに習い事や読書を勧めるのも一案ですが、親子一緒に、カードゲームや塗り絵、スポーツを楽しむのもおすすめです。ボードゲームは、子どもの思考力や行動力、決断力などを養うこともできますよ」(糸山さん)
因みに、糸山さんがおすすめするボードゲームは、「コリドール」と「ゴブレットゴブラーズ」だそう。
スマホから離れ、そばにいる人と話したり、何かを一緒に楽しむ時間を作れば、弊害を改善できるばかりか人との絆を深めることができる。あまり難しく考えず、気軽に行える「置き換えの行動」を見つけたい。
●専門家プロフィール:糸山勇斗
デジタルデトックスアドバイザー。パソコンやスマホの使いすぎで、心身ともにボロボロになった経験をきっかけにデジタルデトックスに出会う。現在は、デジタルデトックスの専門家としてセミナーやメディアでの情報発信を行っている。
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