直近では令和5年度の税制改正によって、マイニングやコインランドリーを用いた節税スキームが封じられた。ちなみにこれは2023年4月から適用開始ということで、既に始まっているためご存じない方は注意が必要だ。
他にもドローン節税などが挙げられる。また節税策とは異なるが、実質相続税の増税とも言える暦年課税制度の生前贈与加算が3年から7年に延長されたことも記憶に新しい。
そこで今回はマイニングやコインランドリー節税が封じられた背景や理由、今後の見通しを元国税調査官の税理士である松嶋洋氏に伺った。
■節税目的で作ったわけではなかったのに節税に利用されてしまった
4月からコインランドリーとマイニングによる節税が認められないことになったが、これらは中小企業経営強化税制で認められていたとのこと。そもそもこの中小企業経営強化税制とはなんだろうか。「中小企業経営強化税制とは中小企業の収益力を強化したり生産性向上を後押ししたりする、一定の設備投資を優遇するための税制措置を言います。この制度の対象になる設備投資を行う中小企業は、その設備投資額の全額を取得時に減価償却できたり(即時償却)、若しくはその投資額の一定割合の税額控除が認められたりします」(元国税調査官・松嶋洋税理士)
最初は認められていた。しかし封じられた。なぜこのようなことが起こったのだろうか。
「経営力を強化するための設備投資であるのに、それを節税に使う納税者が多かったからです。コインランドリーやマイニングの設備は、原則として本制度の対象になりますので即時償却で多額の損金として計上することができます。そうすることで税金の額を減らすことが可能となるため、これを利用し、設備を購入した富裕層が他人に設備をレンタルして経営を任せ、税務上のメリットだけを得る、という『経営強化』と言えない使い方が多く行われていました。昨年度の改正で、同じように即時償却できるドローン節税が防止されましたが、それと類似した手法です」(元国税調査官・松嶋洋税理士)
■節税策に対する今後の見通し
節税策を防止するという方向性は今後も変わらずだろうか?
「防衛増税や多額の財源が必要になる少子化対策などを政府は打ち出していますので、安易な節税策などは今後ますますブロックされていくことは間違いありません。先日も、納税者に非常に有利な制度になっている、退職金の税制について、政府がそれを見直す方向性であることが報道されました。とりわけ、個人の納税者は注意が必要です。現政権下では有効とされていた個人の節税策をブロックする改正が毎年のように行われています」(元国税調査官・松嶋洋税理士)
■節税したいなら国外転出?
残された節税策はあるのだろうか。
「日本人としては悲しい話ですが、節税を考えるなら国外転出、ということになるでしょう。シンガポールなど、税率の低い国に国外移住する事例は後を絶ちません。海外を活用した節税に税務署も厳しい目を向けていますが、相手国との関係もありますので、不正取引は別にして、出国して合法的に節税する場合には、税務署も強引な課税は難しいです」(元国税調査官・松嶋洋税理士)
なんとも後味悪いインタビューとなってしまったが、これらはれっきとした事実である。松嶋洋税理士の言う通り、防衛や少子化対策を考えると、減税は何が起ころうともありえなさそうだ。それでいて節税はだめ。ただ増税はやむなし。となれば、私達は耐え忍ぶしか方法はないということだろうか。
●専門家プロフィール:元国税調査官・税理士 松嶋洋 税務調査対策ドットコム Twitter Facebook
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。現在の専門は元国税調査官の税理士として税務調査のピンチヒッターと税務訴訟の補佐。税法に関する著書、講演、取材実績多数。
記事提供:ライター o4o7/株式会社MeLMAX
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