呼び方だけでなく、「友達親子」という言葉があるように、親子関係も時代と共に変わってきている。大きくなってもパパ、ママと呼ぶ人がいたり、白髪のあるような年齢の息子を“ちゃん付け”したり……。今回はそんな親子関係について、アダルトチルドレンを支援する、カウンセラーの高澤信也さんに話を聞いてみた。
■子育てのゴールは自立、呼び方ではなく関わり方
いい歳になってもパパ、ママと呼ぶ子どもを高澤さんはどう思うのだろう。
「パパ、ママの呼び方自体は何の問題もありません。大切なのは、どう呼ぶかではなく、どう関わっているかです。子育てのゴールである自立へ向かう中で、子どもは徐々に親と距離をとり、仲間の中に身を置き、自分らしさを発見します。子供が離れていく寂しさを感じることがあるでしょうが、成長していると喜べる親でありたいですね」(高澤さん)
成長へのステップがちゃんと踏まれているならば、パパ、ママと呼び続けることに問題はない。では、親が子どもの頃のままの呼称で呼ぶのはどうだろうか。
「こちらも呼び方自体に問題はありません。ただ『ずっとあの頃のかわいい〇〇ちゃんでいてほしい』という実現不可能な欲求が潜んでいたら危険です。その関わりは『大人になってはいけない』という成長を禁止するメッセージとして子どもの中に取り込まれてしまうことがあるからです。その子どもは無意識に実年齢よりも幼い選択をしかねません」(高澤さん)
親の心のあり方次第で子どもの成長を妨げかねない。成長とともに寂しさを感じることはあるが、自立していると喜びたい。親は具体的にどう行動すればいいのだろう。
「子どもの成長を促す役割を果たせるかがポイントです。親が人としてのガイド役をし、人間関係における適切な距離(自他境界)をとることです。自分に変えられるものと変えられないものがあるのを見分け、前者には注力し、後者は受け入れる(限界設定)ことを身につけさせます。親子の仲がいいこと自体は素晴らしいですが、親が親としての役割を果たせていない関係のままだと、大切な要素が育まれないリスクがあります」(高澤さん)
育児は育自といわれたりする。子どもを育てるには無償の愛だけでなく、人生の先輩として親も成長をしなくてはならないようだ。
■良好な親子関係に必要なのは、親の「自分ケア」
しかし、育児をしながら自分も成長しようとすると、心に余裕がなくなってしまうこともあるだろう。子育ては喜びだけではないかもしれない。イライラ、怒り、不安、といった感情が募ることもきっとある。
「親が精神的にエネルギー不足だと良好な親子関係は到底築けません。親も『自分ケア』をする必要があります。大がかりなことをする必要はなく、小さいものが沢山あるほうが効果的です」(高澤さん)
良好な親子関係を築くために必要なのは、親自身のケアだとは意外だ。我慢ばかりせず、ときには親もストレスを開放する必要がある。だが、高澤さんが言う小さいものとは具体的にはどんなものなのだろう。
「子どもにイラっとしたら、その場を離れて5秒間深呼吸する、小一時間でも子どもを預かってもらう、話を聞いてくれる人に弱音を吐く、きれいな空を見上げる、掃除機をかけながら大きな声で歌を歌う、体をやさしく撫でる、したいことをする時間を少しでも確保するなど。1つ1つは小さくてもたくさん集まればケアになるのです。ケアは心に余裕を生み、表情や声のトーン、態度が変化します。それは子どもへ『安心感』という贈り物になります」(高澤さん)
子どもは親の細かいしぐさや感情をしっかり見ているもの。小さな笑顔を積み重ねるのがいいのだろう。
子育てから自立まで、子どもの成長は喜びのはず。そんな日々がなるべくストレスにならないようにしたい。いつか来る旅立ちというゴールを見失わないことが、更に大きな喜びへとつながるのだろう。
●専門家プロフィール:高澤信也
カウンセリングオフィス・トリフォリ代表。公認心理師。アダルトチルドレンだった過去から子育てに悩むアダルトチルドレン当事者、その養育者への支援をしている。毎月1度子育て応援セミナーを福岡県大野城市で開催している。