
■「器用」は生まれつき?
「器用」とは、「巧緻性(こうちせい)に優れていること」と「立ち回りが上手なこと」などを表す言葉の2つの意味がある。質問したユーザーは、前者の意味で「器用になる方法」を知りたがっているようだ。
「細かい作業を上手にこなせることを指す『器用』とは、大きく分けて、『才能として生まれ持った人』、『後天的に磨いた人』の二種に分類されるでしょう。日本人は欧米人に比べて器用な人が多いといわれますが、その理由は、日常的に箸を使う習慣があるからでしょう。幼い頃から箸の使い方を訓練(練習)しはじめますが、フォークやナイフより、複雑な手の動作が必要とされます」(竹内さん)
箸を使う文化は、おのずと日本人の巧緻性(こうちせい)を高めてきたのかもしれない。
「一方、立ち回りが上手なことを指す器用さは、『感覚』や『信念』、『哲学』などをもとに、社会的に培われるものといえるでしょう。いずれの器用さも、先天的に才能として持ち合わせている人もいますが、後天的に身に付け磨くことが可能です」(竹内さん)
手先の器用さも、立ち回りの器用さも、「持って生まれた才能」と諦めるのは早い。いつでも上達や向上を目指し、磨きをかけることができるのだ。
■手先の「器用さ」を磨くには?
では、先のユーザーのように、細かい手作業が苦手な人が、少しでも器用になるためにできる訓練や心がけなどはあるだろうか。
「私が、キャリアカウンセリングに携わった経験の中で、製造メーカーに就職をしたものの、上司や先輩から『不器用だ』といわれ、『不器用な自分がなぜモノづくりの現場に携わっているのか』と後悔していた人がいました。日々、苦手な作業が続くため、会社を休みたいと思うこともあったそうですが、『なんとか乗り越えたい』と先輩から徹底した指導を受け続け、上手に仕事をするためのコツを体で覚えていったそうです。上手くいったときに先輩が褒めてくれることも励みになり、『10回叱られたら1回褒めて貰えるよう頑張ろう』という目標を持って真摯に仕事に取り組んだところ、結果的に利益に貢献できる人材に成長しました。上司からの信頼や社内での評価も高まったということです」(竹内さん)
困難な状況に陥っても、「褒められると嬉しい」という喜びを原動力に感情をマネジメントし、「不器用」というレッテルを打破できたのだ。このような事例から、竹内さんは、「器用さ」を磨くには「自分の信念」が大切ではないかと提案してくれた。
「誰しもが、与えられた仕事を器用にこなせることが理想と考えるかもしれません。とはいえ、どんなに能力の高い人でも、最初からソツなくこなせた訳ではなく、経験を重ねることで作業のコツを覚えたり、効率を上げるための勘が働くようになるものです。まずは、『どうしたら理想の自分になれるか』、『上達するためには、どのような練習をすべきか』を考えながら、学びに段階的な目標を設け、着実にステップアップしていく自分の姿を思い描きましょう」(竹内さん)
いくら能力の高い人でも、最初からできる人などいない。諦めずに理想の自分をイメージすることが大切ということだ。
「何事も器用にやり過ごしたいと考える人もいますが、限られた範囲や環境の中で、熱心に誠実に課題に向き合い、極めたいと考える人もいるでしょう。『不器用』という人からの評価や先入観、自分が感じる劣等感などに惑わされず、信念を持って自分の価値を高めていくことを考えてみてください」(竹内さん)
目標に向かいコツコツと努力していたら、苦手だった細かい手作業が上手になっていたといえれば理想的.だ。不器用を克服するための過程で、自分なりのゴールを目指し、精進し続けることができる信念や実行力を身につけられたら、さらなる強みにもなるだろう。
●専門家プロフィール:竹内 和美(オフィス・ウィズ)
(株)松坂屋名古屋店にて販売・秘書・広報の業務を経験。1999年「オフィス・ウィズ」を設立。ロールプレイング中心の実践型研修やキャリアカウンセリングに定評があり、企業や個人からの講師依頼も多数。