
■子どもがいる夫婦の場合の配偶者の死の乗り越え方
まず、子どもがいる夫婦の場合の配偶者の死の乗り越え方について聞いた。
「子どもが小さい場合、周囲の援助を快く受けてください。子どもの元気についていけず、自分をダメな親と責めてしまうことがありますが、元気が出ないのは仕方がないことです。また、家事や力仕事など、これまで自分の役割ではなかったこともしなくてはならなくなりますから、自分の時間を大切にしつつ、無理をせずに周りに助けを求めてください」(日高さん)
状況を理解していない子どもの元気さは、ストレスになりかねない。では、子どもが一定の年齢に達している場合はどうだろうか。
「子どもが大きい場合、配偶者を亡くした立場と親を亡くした立場で、共有できる部分もありますが、同じ気持ちではないこともあります。違っていても嘆く必要も、傷つく必要もありません。口に出さなくても、大切な人を亡くした悲しみは誰もがもっているものなのです」(日高さん)
故人への思いは違っても、悲しみに変わりはないということのようだ。
■子どもがいない夫婦の場合の配偶者の死の乗り越え方
次に、子どもがいない夫婦の場合について聞いた。
「大切なのは、孤立せず、できるだけ周囲との関係を保っていくことです。外に出るのも嫌という場合もあるかと思います。そんな時でも可能な範囲で、外に出て日の光を浴びるとよいでしょう」(日高さん)
気から病を発症しては、元も子もない。生活のバランスをなるべく崩さず過ごしたい。
「仕事やご近所の集まり、習い事なども変わらずしていきましょう。周りとの関係を保ちながら、悲しみにとらわれない時間を作ることが必要です。新たに何かを始めてみるのもおすすめです。かねてから興味のあったことや、配偶者が興味をもっていたことなどがよいでしょう。例えば、『東京オリンピックまでに英語を話せるようになりたい』と言っていたので、英語を習ってみるとか。こんなことでも、配偶者とのつながりを感じられます」(日高さん)
普段通りの生活をしていくこと、社会との関係性を断ってしまわないこと、それが重要なのだ。
「泣きたい時は我慢せず思いっきり泣くこと、気持ちを心の中に溜めこまず、吐き出していくことが必要です。誰かに話を聞いてもらったり、気持ちを分かちあったりすることも、孤独な状況からの救いになるでしょう」(日高さん)
頼りになる人がそばにいると心強い。仲のよい親戚や友達には、こんな時こそ甘えるとよいだろう。
■死への向き合い方
最後に、配偶者に限らず、人の死への向き合い方について尋ねた。
「親が亡くなれば過去を、配偶者が亡くなれば現在を、子どもが亡くなる時は未来を失うと表現されるほど、死別は人生における大きな出来事です。葬儀や各種手続きをしている間はなんとか気持ちも保たれていますが、一通りの儀式が終わった後、糸が切れたように今までに体験したことがないような状況に襲われることがあります。自分はおかしくなってしまったのかと、動揺してしまうかもしれません。こうした状況に陥る可能性があるということを、事前に知っておくだけでも助けになります」(日高さん)
大切な人を亡くした悲しみをグリーフと呼ぶそうだ。日本語に訳すと「悲嘆」だ。
「グリーフの感情だけではなく、ストレスから体調不良や不眠に襲われることもあります。また、疲労感や、うつに似た症状が出るケースもあります。パニックになってしまうこともあるかもしれません。しかし、これはおかしなことではなく、ごく自然な反応です。悲しみを乗り越えるには数年かかる場合もありますが、必ず徐々に回復していきます。後戻りすることもありますが、それもごく自然なことです。焦らずにご自分を見守っていっていただければと思います。悲しみや辛さを溜めこまず、信頼できる人に話すだけでも、気持ちが楽になるものです」(日高さん)
日高さんによれば、即座に必ず乗り越えられる万能な方法はないという。関係性や死因、過ごした年数や思いなどがそれぞれ違うからだ。もしもの場合は、今回紹介した方法を試しつつ、自分なりの立ち直り方を見つけていただきたいと思う。
●専門家プロフィール:日高 りえ
ファンボイス エンジェルQP 死別専門カウンセラー&メッセンジャー。2010年より死別専門カウンセリング中心に、頑張っている人や心癒されたい人に向けたサービスを提供。現在約300名のカウンセリングを行い、悲しみから立ち直るための手助けを行っている。