■近代貨幣の形や素材、製造
現代使用されているような「近代貨幣」が誕生した時期は、貨種ごとに異なるようだ。
「明治初期、西洋の技術を取り入れ、近代貨幣の製造が始まりました。500円玉は平成12年、100円および50円玉は昭和42年、10円および5円玉は昭和34年、1円玉は昭和30年から現在のデザインです」(造幣局)
では、素材はどのように決まったのだろうか。
「貨幣の素材は、ニッケルや銅、亜鉛、スズ、アルミニウムなど、適した特性を持ち、安定して入手できるものを用います。合金する際は、偽造防止の観点から、広く一般に使われていない比率になるよう工夫しています。インフレ等で素材の価格が額面を超えてしまわないようにも配慮しています」(造幣局)
素材同様、形状にも理由があるのだろうか。
「5円と50円玉に穴が開いているなど、貨種によって形状やサイズ、重さが違うのは、他の貨種と区別するためや、偽造防止が主な理由ですが、原材料を節約する目的もあります。貨幣側面の“ギザ”はもともと、金貨や銀貨などの貨幣の外縁が削り取られるのを防いだり、当時の最高額面の貨幣であることを示すためにつけられていました。現在では、他の貨幣と区別するためや、偽造防止対策の理由でつけられています」(造幣局)
偽造防止に入念な対策を取っていることが分かる。では、貨幣はどのようなタイミングで製造されているのだろうか。
「財務省において、必要とされる貨幣の円滑な供給を図る観点から、貨幣の流通動向等を勘案し、年度ごとに貨幣の製造枚数が決められます」(造幣局)
財務省のホームページによると、毎年3~4回は貨幣の製造計画が見直され、適した枚数が製造されているとのこと。
■近代貨幣のデザイン
貨幣のデザインは、どのように決定されるのだろうか。
「デザインは、財務省から要請を受け、造幣局職員が作成します。一般に図案を募集し作成された貨幣もありますが、造幣局職員が作成する場合は、専門家からのご意見を頂いて多くの議論を重ね、最終的には政府の閣議で決定されます」(造幣局)
どんな絵柄でもOKというわけではなさそうだが……。
「使われるモチーフは、日本国民特有の情緒とその生活に融合した植物(菊、桜、桐など)であることが多く、その他には、瑞穂の国を代表する農作物(稲)や自然美を象徴する富士山、古今の文化財(寺院建築)等が使われています」(造幣局)
“和のモチーフ”であることは必然なのだろう。5円玉のみ「五円」と漢数字なのもデザイン的な理由からだろうか。
「5円玉については、昭和24年に穴あきの黄銅貨として、“稲、歯車、水”と“双葉”のデザインで誕生しました。その後、昭和34年に文字の書体が楷書体からゴシック体へと改正され、現在のデザインに至ります。数字や文字も貨幣デザインの一部であり、現在の漢数字が選ばれました」(造幣局)
貨幣のデザインといえば、2020年に開催される東京五輪の記念貨幣も販売しているようだ。「これからも各種競技をモチーフにしたデザインのものが多数登場しますので、造幣局ホームページなどでご覧になってみてください」と旬な話題も提供してくれた。プレミア感満載の記念貨幣は、オリンピックならではの仕様で、より一層の偽造対策が講じられている。
「例えば、金融機関窓口で引換される100円記念貨幣は偽造防止のため、2種類の金属板をサンドイッチ状に重ね合わせる“クラッド技術”を用いて製造しています。オリンピックの貨幣とパラリンピックの貨幣は、側面にあるギザの間隔を変えて区別し易くする工夫を施しています」(造幣局)
開催直前までに、4回に分けて37種類の記念貨幣が発行されるとか。造幣局のホームページを見ると、第一次発行分は既に出回り始めているようだ。
記念貨幣はもとより、普段何気なく使っている小銭にも多くの工夫がなされていることが今回の取材で分かった。電子マネーのこの時代だからこそこれを機に、その重みを今一度感じてみるのもよいかもしれない。
●専門家プロフィール:独立行政法人 造幣局
明治4年、創業式を挙行し、貨幣の製造のほか、勲章・褒章及び金属工芸品等の製造、地金・鉱物の分析及び試験、貴金属地金の精製、貴金属製品の品位証明(ホールマーク)などの事業を行う。大阪市に本局、さいたま市・広島市に支局をもつ。