■サイクリングはツボ押し効果があるってホント?
サイクリングの運動効果は運動強度や時間にも左右されるため、一概にはウォーキングより優れているとは断言できないという。ではどのような健康効果が期待できるのだろうか。
「ペダルを回す動きは、人間の筋肉群の中で一番大きいとされる『大腿四頭筋』を使います。それにより、酸素を取り込むための呼吸を要します。脚関節に衝撃を与えず、循環器系に無理なく負荷をかけることができます。さらに、ペダルを回すことで、無意識のうちに身体の動的なバランスを保つのに必要といわれる腸腰筋を鍛えることができます」(小林さん)
有酸素運動ができ、関節への負荷が少ないのが特徴だ。
「体にいきなり負荷をかけないようゆっくり走ることを基本とし、身体が自転車に乗ることが慣れてきたら、距離を徐々に伸ばすことをおすすめします。東洋医学的に見ると、自転車のハンドルやサドル、ペダルに接している身体の部位には健康に影響するツボが集中しているため、乗っているだけでツボマッサージができる、ともいえます」(小林さん)
本格的なサイクリングを行うとなると、前傾姿勢で長時間乗ることになる。そのフォームが身体に負担をかけるということはないだろうか。
「どのような自転車でも、乗る時に気をつけたいのが実は肩周りです。バランスを取るため肩に力が入って首が両肩に埋まってしまうようなフォームは、安定も悪く早く疲れてしまいます。特に前傾姿勢になった場合、肩まわりだけでなく上半身の体重を支えるための腕まわりにも負荷がかかります。普段、身体の各所に負荷をかけていない生活を送っている人は、前傾の度合いにもよりますが、筋肉が硬くなり血液が行き渡らなくなり『腰・首・手首が痛い』という状態になる可能性があります。その時点で、既に身体に悪い状態に陥っているともいえるでしょう。同じ姿勢で長時間乗っていると、トレーニングでは鍛えられていない一定の部位の筋肉に負荷が掛かるためです。ただし、それらの部位が腫れてしまうくらいまでのダメージを受けていなければ、それは『トレーニングができている』ということになるでしょう」(小林さん)
スポーツバイクでサイクリングを行う場合は、それらの負荷を軽減し障害を起こさないような正しいフォームを収得するために専門書で学ぶか、専門家に教えてもらうことをおすすめする。
■ストレッチによる疲労回復効果
サイクリング前・後ともにストレッチを行うことで疲労回復が見込めるという。「特に高齢者の方や循環器系の疾患をお持ちの方は、必ずサイクリング前にアップストレッチを行うようにしましょう。体に『これから運動するよ』というメッセージを伝えるという意味合いがあります。具体的には、ラジオ体操第一がおすすめです。また、サイクリング後にもストレッチを行いましょう。下半身は足裏、ふくらはぎ、太ももの前後、腰、そして上半身は、胸、わきの下から腰にかけての体側、背中の両脇、首回り、肩回りを重点的に行います。それらの部位に意識を集中し、『痛い』と思う手前で30秒以上伸ばしましょう。適度なストレッチは血液の循環を促進し、疲労を回復します」(小林さん)
紫外線対策や水分補給も欠かせない。
「強い日差しの日には、紫外線を避けることができる特殊素材の衣類着用をおすすめします。紫外線は目からも侵入し疲労を促進させるという説もあります。同時に、ほこりや虫などから眼球を守るためにもサングラスの使用は必須です」(小林さん)
時速20キロ以上出る自転車では、目を保護することが求められる。また、水分は成分により飲み分けるのが有効と小林さんは続けた。
「サイクリングは、季節を問わず汗をかくスポーツなので、水分補給はこまめに行いましょう。特に発汗の多い初夏から晩秋にかけては、『ポカリスエット』や『アクエリアス』など比較的吸収の遅いスポーツドリンクをサイクリング前に飲みましょう。『OS-1』など吸収の早いタイプは最中、終わった後には筋肉疲労回復に有効といわれる『アミノバイタル』というように、タイミングによって飲む種類を変えることをおすすめします」(小林さん)
小林さんは、週1回程度自転車通勤をしているそうだ。片道32kmの道のりを2時間弱で往復しているおかげか、71才になった今でも健康を維持できていると語る。コロナ渦で運動不足に陥りがちな今こそ、サイクリングをはじめてみてはいかがだろうか。
●専門家プロフィール:日本サイクリング協会
サイクリングの健全な発達とその普及のため、事務局を中心に全国の各都道府県サイクリング協会と協調のもとにさまざまな事業を行う。サイクリングの普及奨励やサイクリング愛好者の交流と安心、安全の確保などに務める。