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山中   王勃

長江悲已滞(長江已に滞れるを悲しみ)
万里念将帰(万里将に帰らんとするを念ふ)
況復高風晩(況んや復た高風の晩)
山山黄葉飛(山山黄葉の飛ぶをや)


私が長江のほとりに滞在すること久しくなったのは悲しい。
遠い故郷に帰ろうと思い続けてきた
まして今年もまた秋風の吹き始めた夕暮れに
山々の紅葉が飛び散るときはなおさら望郷の思いはつのる。

漢詩はどうやって解釈すればいいのですか?
上の様な解釈がついているのですが、この短い文からどうして読み取れるの?
起句の「ほとりに滞在すること久しくなった」なんてどこから・・・?

A 回答 (2件)

○形式から時代を推察


五言絶句は唐代にもっとも盛んになった形式です。全てが唐代のものとは限りませんが、学校教材や試験で使われるものはほぼ唐代のものと考えて差し支えありません。これが唐代の詩と仮定して話を進めます。

○時代背景を知る
漢詩のみならず、古典を解釈するにはその時代背景を知っていなければなりません。
唐代には官吏任用制度として科挙が採用されたことが有名です。この時代、書籍は非常に高価でしたから、勉強するにも非常にお金がかかりました。だから、科挙は財産のあるものしか受けられなかったのです。また科挙の試験には詩を作る科目があり、これが非常に重要でした。ですから詩を書いた人というのは、科挙を受けるための教育を受けた人達でした。
詩人という職業があったのではありません。貴族=知識人階級=資産家=政治家(もしくは政治家予備軍)が詩を書いたのです。

○どんなことを題材にしたか
現代の詩の題材として一番多いものは恋愛でしょう。他にはギリシャのホメロスのような英雄伝説を書いたものや、日本の和歌のように自然の美しさを詠む場合もあります。しかし唐詩のテーマは限られています。
1)憂悶・苦悶(とくに官僚として出世できない自分を嘆く)
2)自然美
この二つで90パーセント以上と思ってください。長恨歌のように恋愛を詠んだ詩も稀にありますが、これは御存知のように皇帝の恋愛を詠んだものです。自分の恋愛感情を詠むことは「みっともない恥さらし」と捉えられていたようです。

○名詩がうまれるには
詩のみならずあらゆる芸術活動に言えることですが、精神的に満足し安逸な生活からは良いものは生まれません。押さえ込まれて鬱屈した精神がそのはけ口を求めてあふれ出すとき、それが芸術活動のエネルギーになります。
先ほど述べたように、この時代の詩人は同時に政治家もしくはその予備軍でしたから、主な悩みの種というのは、「官僚として出世できない」ことでした。また寂れているからこそ、自然の美しさに感受的だったとも言えるかもしれません。寂れた自分と美しい自然を比較するというのは典型的なパターンです。このことを知っていれば杜甫の「春望」も簡単に解釈できます。

○具体的解釈
【長江】「江」というのは長江、「河」というのは「黄河」のことです。長江は場所によって呼び方が変わります(揚子江、烏江、湘江など)から、長江とは原則として現在の武漢から南京あたりだと思って下さい。
 でも不思議ですよね。なぜ長江が見えるのですか?唐の都は長安のはず。なぜ貴族政治家がそんなところに居るのでしょう?
 理由は左遷されたから(杜甫のように放浪している場合もある)。
 日本の平安時代を思い出して下さい。第一線級の政治家は京都から外に出ません。菅原道真が太宰府の長官になったときも左遷でした。つまりこの時代、仮に州の長官としてであっても、地方に出ることは左遷だったのです。

【悲已滞】地方に左遷されてからずっと、長安に呼び戻される日を今か今かと待っている。だけど未だにここにいる自分が悲しい。

【万里念将帰】これは簡単ですよね。遠い距離がある長安まで早く帰りたい。

【高風晩】これは少し難しいですね。中国には秋の日に(たしか九月一日)、仲の良い人たちと高台に登って盛大に飲み交わす習慣があるんです。ところが、この辺境にいてはそれができません。だから本来ならばみんなで高台に登って酌み交わしている日なんだけど。

【況復】ただでさえ悲しいのに、またこの晩が来ると格別だね。

【山山】しょうがないから自分ひとりで山に登っちゃったよ。(山中という題からも、作者がいま山に来ていることがわかる)

【黄葉飛】すると落ち葉が飛んで荒涼としていて、ますます寂しい気分になったよ。ああ、都に帰りたい、都に帰りたい、ブツブツ・・・・・。

漢詩を多少読み慣れますと、このように素で読めるようになります。資料で確認したわけではありませんが、大意としてはあっているでしょう。

○参考
王勃(おうぼつ)は初唐の四傑の一人に数えられ、わりと有名な詩人のようです。
杜甫の「登高」という詩が、これとほぼ同じシチュエーションで書かれています。唐詩選に収録されていますから、図書館で探せば見つかります。
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この回答へのお礼

大変すばらしい解説ありがとうございます。(感涙)

>○時代背景を知る
>漢詩のみならず、古典を解釈するにはその時代背景を知っていなければなりません。

これ、大切ですね。夏に思いっきり知ってみよう。
では、どうやって知ればいいのでしょう?
国語便覧(総覧)でいいかな?


それにしても、ホントにすばらしい解説ですね。
ガッコの先生よりいいですよ。ホント。

お礼日時:2003/07/04 21:28

国語便覧は非常に良くできた書物です。


しかし、あれを読むのは骨が折れる作業です。むしろ、一通り勉強してから読むと、知識の整理ができて良いでしょう。
また、日本史、世界史の学習もおろそかにしてはいけません。

各分野で一冊づつ、安価に購入できる図書を推薦しておきます。

古文
新源氏物語(上・中・下) 田辺聖子訳 新潮文庫

漢詩
新唐詩選 吉川幸次郎ほか著 岩波新書

漢文一般
史記 貝塚茂樹著 中公新書
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この回答へのお礼

お勧めしていただきありがとうございました!
感謝感謝!

お礼日時:2003/07/05 22:49

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