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中央銀行が行う金融政策は、通常、短期金融市場において銀行を相手に公開市場操作で短期金利を誘導することによって行われます。
短期金融市場とは、銀行が日々の資金繰りを調整する、期間1日~1ヶ月程度の満期の短い資金の貸借市場のことです。銀行は貸出や預金の調整によって生じた最終的な資金の過不足を流動性が非常に高く、信用リスクが極めて小さい短期金融市場でやりとりする仕組となっています。中央銀行は、景気を引き締め方向に誘導したい場合は、銀行が持っている国債を安値で買取り(=市場金利を高めにする)、緩和方向にしたい場合は高値で買取ります。また、市場に資金がだぶついているときは国債を放出して資金を吸収します。なお、国債の流通量が減ったりして市場全体の流動性が低下する場合などは、直接的に銀行に貸出を行うこともあります。
短期金利が変動すると、イールドカーブを通じて長期金利も変わります。また銀行の貸出金利や預金金利にもすぐ影響が出ます。
ところが、近年は世界的な低金利が定着し、日本や欧米では短期金利はほぼゼロになってしまいました。そうすると短期金利を操作して金融政策を行うことはほぼ不可能となってしまいます。なぜこのような状態になっているかといえば、景気の先行きについての不透明感が極めて強いと、人々の流動性保有願望(手元に現金を保有しておきたいという需要)が極めて高くなり、金利が低くても他の資産を保有しようとしなくなっているからです。その状況の下では、景気は停滞してデフレ傾向となっていますから、物価は長期的に下落し続けます。ここで、
実質金利=名目金利-物価上昇率
という関係式が成り立っているので(フィッシャーの関係式といいます)、物価上昇率がマイナスの現状では、実質金利は名目より高くなってしまいます。なお、名目金利とはわれわれが普段テレビやネットで目にする金利のことで、実質金利とは物価の変化率の影響を取り除いた金利のことをいいます。経済学では、実質金利が重視されます。日本のように名目金利がゼロ、物価上昇率がマイナス1%程度の場合、実質金利は1%となるわけですが、中央銀行は短期金融市場での金利操作だけでは実質金利を動かすことができないのです。
実質金利を低下させ、景気を刺激するには物価上昇率を引き上げてデフレを解消しなくてはなりません。そこで、金利操作という伝統的な金融政策の手法を全面的に放棄して、お金の流通量を直接増やそうというのが、量的緩和政策です。
長い目で見た場合、社会に流通するお金の量(マネーストックといいます)が増えると物価が上がる傾向にあるからです。金利という指標を通さず、直接市場に資金を大量供給すれば、余剰となった資金は株式や不動産の投資に回ったり、銀行貸出を通じて設備投資に回ったりすることが期待されています。ただし、資金の供給量を従来のとおり短期性の資金で供給しても、銀行は短期国債を売却するだけなので、市場全体ではあまりインパクトがありません。そこで、最近の金融政策では長期国債も大規模に買入を行い、長期金利そのものも引下げることが行われています。これが質的な緩和です。これによって、設備投資や住宅ローンなどの長期性資金に対する緩和の影響はもっとダイレクトになると期待されるからです。
日本についていえば、黒田日銀総裁が4月に始めた「異次元緩和」はメリットとデメリットの双方を生み出しており、全体的な評価をできる材料はありません。
メリットとしては、2年で2%の物価上昇率が達成されるまで大規模な緩和を続ける、という強いコミットメントにより、市場の緩和期待が醸成され、為替レートの円安化や株価の大幅上昇のトレンドが続いており(やや落ち着きましたが)、それが資産効果を通じた消費や、それにつられた設備投資などに好影響を与えている面があります。
一方、デメリットとしては、円安による輸入インフレが現実化しており、内需産業を中心に「悪い物価上昇」の芽も出始めていることです。また、市場にある国債の7割を買い占めるという大規模な緩和政策が、債券市場の多様性を失わせ、結果として市場を混乱させた結果、長期金利が上昇しやすい局面になってきていることです。すでに住宅ローン金利などは上昇し始めています。
なお、「アベノミクスは大成功だ」とか「アベノミクスは必ず失敗する」など、両極端なことをいう評論家などがいますが、いずれもそれぞれの立場上言う結論を決めている「ポジショントーク」がほとんどで聞くに値するものはほとんどありません。真実はほぼ中間で、まだ結果はわからないし、結果が出た場合も金融緩和だけの成功でも失敗でもない複雑な原因となることは確かです。
本来は、消費や投資が伸び、それが企業収益を改善させ、家計の賃金・所得上昇とあいまって経済を底上げできなければ、大規模緩和は失敗したこととなります。まだその効果を見極めるだけのデータが出揃っていないため、今後半年から1年程度かけて市場が黒田緩和の成否を判断していくことと思われます。その際、政府側で財政再建の本格的な政策が始動しなければ(消費税増税や社会保障費の大胆な削減)、外国人投資家などから一斉に「日本売り」が誘発され、株価の暴落や長期金利の暴騰に歯止めがかからなくなるでしょう。いったんそうなった場合には、次の打ち手はほとんどない、ということも頭に入れておく必要があります。
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