■どうしようもなく腹が立った場合の対処法
最初に青柳さんは、怒りのコントロール術として有名な「アンガーマネジメント」もよいが、それよりも負の感情をおさえられるよう、自分の「思考」を豊かにすることのほうが漸進的と教えてくれた。
「『アンガーマネジメント』とは、怒りの感情と上手に付きあうための心理トレーニングです。しかし有名な、『その場を離れる』、『10秒カウントダウンする』などは、“ひとつの手段として知っておくとよい程度”と考えます。そもそも人間は怒りなどの感情を、そのように無理に抑圧しようとしてストレスをためてしまいがちなのです。自然に湧き上がる『感情』は、『思考に付随して得られる副産物』に過ぎないため、自分の思考自体を柔軟に豊かにしたほうが、前向きな怒りのコントロールにつながるでしょう」(青柳さん)
「思考を豊かにする」とは、「こういう考え方もある」というパターンを増やすこと。つまり、物事の考え方や捉え方次第で、負の感情に振り回されなくなるということだろう。
■相手別の適切な対処法
先の話に基づき青柳さんは、相手別に適切な“思考の持って行き方”を提案してくれた。まずは職場で同僚や上司に腹が立った場合だ。
「社会に出たら、仕事上の人間関係は避けられるものではありません。苦手な相手とはできるだけ関わらないよう一定の距離を保ったり、我慢しながら付きあうのが定石でしょうが、ビジネスにおいては難しいですね。同僚に対し腹が立つこともあるかもしれませんが、相手に変化を求めるのは難しいものです。予想外のことはダメージを受けやすいものですが、自分の考え方を変えることは可能ですよ」(青柳さん)
たとえば、同僚と一緒に携わっていた業務で何らかのミスがあり、上司に追求され、同僚が責任を自分になすりつけてきたとしたら、やはり嫌な気持ちになるだろう。
「嫌な相手ほど関わりたくないものですが、苦手意識はミスコミュニケーションを生みやすいものです。まずは『同じ職場の人たち=同じ目的に向かう共同体』と考え、お互いの目的を理解し認め合うことからはじめましょう。そして、忖度して無理をしたり、曖昧な返事で言葉を飲み込むことはせず、自分の能力や苦手なことを把握した上で、主張することは主張し、断れることは断ることができたらよいですね」(青柳さん)
苦手な相手との仲がこじれる前に先手を打つ作戦だ。では、両親や兄弟に腹が立ったらどうすればよいだろう。
「心のプロの心理カウンセラーであっても、身内の人間への感情は思い通りにならないものです。身近であるがゆえ互いへの感謝は薄れがちになるため、以前にももめた経緯のある事柄の反復で発火しやすいです。身内とはいえ『適度な距離感』を心がけ、『期待しないこと』、『客観的に理解しようとすること』が大切です」(青柳さん)
身内に腹が立つようなことがないように願いつつも「適度な距離感」は肝に銘じておこう。最後に友人に腹が立った場合は、どうすればよいか聞いてみた。
「仲良くしたいために我慢するのは好ましくないです。友人に自分の怒りを伝えることが難しければ、自分も相手も大切にする『アサーション』を取り入れ、自らの願いや期待を『私』を主語にして伝えるとよいですよ」(青柳さん)
「アサーション」というコミュニケーションスキルを培い、自分の思いを伝えるとよいそうだ。アサーションとは、自分の意見を相手に押し付けず、しかし意見を述べることもいとわない、自他それぞれの自己表現を尊重し合うことだ。攻撃的になりすぎず、かつ保守的にもなりすぎないことで、お互いの主張を認め合うのだ。
今回は、職場、家族、友人関係において、怒りをおさえるテクニックが変わってくることもわかった。困ったことがあれば、それぞれのシチュエーションで、試してもらえると幸いだ。
●専門家プロフィール:青柳 雅也
「カウンセリングルーム アンフィニ」代表。個人カウンセリングや企業のメンタルヘルスケア、心理学セミナー、企業研修、教育機関で心理学の非常勤講師など活動は多岐に渡る。保有資格は産業カウンセラー(社団法人 日本産業カウンセラー協会認定)