■海外では雨水をペットボトル水の原料としているところも
さっそくユーザーからの質問を投げかけてみた。雨水は飲めるのだろうか?
「降り始めの雨は大気中のさまざまな物質と一緒になっているので汚れていますが、降り出してから30分以上経つと大気に含まれている物質が少なくなり、雨水もきれいになります。世界各地には雨水をきちんと貯めて、飲用や生活用水に使用している人たちがいます。例えば、オーストラリアでは住宅の屋根に降った雨をタンクに貯め、簡易ろ過したのちに飲用水として活用している地域があります。また同国には、雨水を原料にペットボトル水を製造・販売している会社もあります」(橋本さん)
ということは、雨水は飲んでいいのか?
「それは難しい問題です。日本では雨水が飲用水として認められていないのです。万が一、お腹がいたくなったとしても、誰かが責任をとってくれるわけではありません」(橋本さん)
国によっても勝手が違うらしい。日本では飲む習慣がないので、自ら実験台になるリスクは避けたい。
■雨水で生活用水をまかなえる
続けて雨水の活用について話を聞いた。
「空気の汚染状況によって変わりますが、降り始めの雨を除けば、さまざまなことに活用できます。例えば、次のような実験があります。雨水、水道水、硬度の高いミネラルウォーターを用意し、同量をコップに注いだとしましょう。そこに、石鹸水を少量入れ、よくかき混ぜます。どのコップがいちばん泡立つと思いますか?」(橋本さん)
ミネラルが豊富に含まれている、硬度の高いミネラルウォーターでは?
「間違いです(笑)。むしろ、いちばん泡立ちにくいのが硬度の高いミネラルウォーターで、その理由は石鹸の成分とミネラルが反応するからです。正解は雨水です。したがって雨水は洗濯に向いているということになります。少量の石鹸で泡立ち、すすぎに使う水も少なくて済みます」(橋本さん)
それは面白い事実だ。
「ちなみに雨水活用先進国のドイツでは、雨水を集め・貯め・活用するという流れが仕組みとして確立されています。都市の再開発が行われる際には、当たりまえのように雨水活用施設が導入されます。『ビルの屋根や路面から雨水を集めて地下の貯留槽に送ってトイレで利用する』といった具合です」(橋本さん)
さすがドイツは、無駄がない。日本はどうだろうか。
「雨水活用の先進地である東京都墨田区では、個人住宅の中に雨水をためるタンクを見かけます。溜まった水は、植物の水やり、トイレの流し水、洗濯、防火用水などに活用されます」(橋本さん)
どうやら日本ではまだまだ雨水活用の開拓ができそうだ。
■雨が降ると匂いがするのは事実
ところで雨といえば、特有の匂いがするというが、科学的根拠があるのかも聞いてみた。
「雨が降った時の特有の匂いを1964年にオーストラリアの科学者が『ペトリコール』と名付けました。そして最近になって、匂いの正体は雨粒によってできる気泡だと分かりました。マサチューセッツ工科大学の研究者が、雨粒が地面や植物にぶつかった瞬間に、小さな粒子を含んだ気泡ができることをハイスピードカメラでとらえています。その気泡は『エアロゾル』と呼ばれています」(橋本さん)
雨の匂いは科学的に実証されていた。
「なお、エアロゾルに取り込まれる成分は雨粒の落ちた場所の土や植物の状態によって変わり、匂いもそれにともなって変化します。雨の降り方、雨の落ちる場所によっても発生のしやすさが変わります。発生しやすいのは、小~中程度の雨の降り始め、砂や粘土質の土に落ちた時です」(橋本さん)
エアロゾルは風によって運ばれるので、近くで雨が降り始めたときにも匂いを感じるとのことだった。
雨の季節がある日本で暮らしていながら、雨に関して知らなかった情報もあったのではないだろうか。橋本さんいわく、「皆さんもぜひ雨の恵みを体感してみてください」とのこと。雨水の資源としての活用はもちろん、雨の匂いという風流な部分でも、雨の季節を楽しんでみてはいかがだろうか。
●専門家プロフィール:橋本淳司
水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所 代表。水ジャーナリストとして水問題やその解決方法を調査、発信。アクアスフィア・水教育研究所を設立し、自治体・学校・企業・NPO・NGOと連携しながら、「みずから考える人」、「水を語れる人」を増やすなど、水問題を解決する活動を行う。近著に『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)などがある。