
■短編アニメーション映画は名作の宝庫
短編アニメーション映画というと、映画館で長編アニメーション映画本編の前に上映される「おまけ」的なイメージを持っている人もいるかもしれない。しかし、長編では扱いにくいテーマや表現をエンターテインメントに昇華させた名作も多く、米アカデミー賞でも「短編アニメーション賞」として独立した賞が設けられているほど。
たとえば、ピクサーの『ティン・トイ』は30年も前にフルCGでおもちゃの奮闘を描いてアカデミー短編アニメーション賞を受賞した作品だが、そのCG技術やおもちゃの擬人化などの表現が、のちの大ヒット長編アニメーション映画『トイ・ストーリー』シリーズにつながった。
ディズニーの場合は1930年代に制作された『三匹の子ぶた』や『みにくいあひるの子』から、『ベイマックス』と同時上映された『愛犬とごちそう』まで、数多くの作品が短編アニメーション賞を受賞している。いずれも、これまでにないアイデアや技術で新しい表現を目指した作品ばかりで、今観ても新鮮な驚きと感動がある。
ピクサーやディズニーの短編アニメーション映画の一部は『ピクサー・ショート・フィルム & ピクサー・ストーリー』や『ディズニー・ショートフィルム・コレクション』としてパッケージ化されているので、気になる人はチェックしてみてはいかが?
■短編アニメーション映画の可能性を追求する「ポノック短編劇場」
アニメ大国と呼ばれる日本でも意欲的な短編作品は数多く制作されている。そのなかでも、この夏の締めくくりにピッタリなのが、8月24日より全国ロードショー公開される『ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―』だ。昨年公開されて大ヒットした長編アニメーション映画『メアリと魔女の花』のスタジオポノックが制作を手がけている。
同作は、スタジオポノックが新設した、短編アニメーション映画専門レーベル「ポノック短編劇場」の記念すべき第1弾作品。タイトルにもある「ちいさな英雄」をテーマにしたアンソロジーで、3つの短編で構成されている。
そのうちひとつめの作品が、大嵐で川に消えた父を探すため冒険の旅に出るサワガニの兄弟の勇気を描いたファンタジー『カニーニとカニーノ』だ。『メアリと魔女の花』の米林宏昌監督によるオリジナル作品で、手描きとCGを融合させた美しい水中の描写や、主人公のカニの少年たちの可愛らしさなどが見どころ。セリフらしいセリフはほとんどなく、登場人物たちがお互いの名前を呼び合っているだけのように聞こえるのだが(カニ語を喋っているという設定らしい)、にもかかわらず登場人物の感情がダイレクトに伝わってくるのが印象的だ。

ふたつめの作品は、生まれたときからたまごアレルギーを抱えながらもたくましく生きる少年と、その母の絆を描いた実話ベースの人間ドラマ『サムライエッグ』。水彩や色鉛筆で描いたような温かいタッチと、不安を抱かせる荒々しいタッチとのギャップで緊張感を表現するなど、独特の色彩表現による「動く絵本」のような世界観が特徴になっている。メガホンをとった百瀬義行監督は、巨匠・高畑勲監督の右腕としてその作品を支えてきた人物。PVやCMなどで常に新しいアニメーション映像を追求してきたという百瀬監督ならではの、斬新で感性豊かな作品に仕上がっている。

3つめの作品は、都会の隅でひっそりと生きる男の日常と孤独な闘いを描いたスペクタクルアクション『透明人間』。スタジオジブリの宮崎駿監督作品で知られるアニメーターの山下明彦さんが監督を務めている。作中には、他人から見えず、存在を認識もされない男性が登場するのだが、体のパーツも顔も表情もまったく描かれないにもかかわらず、その存在感や感情の起伏などが伝わってくる。しかも、CGはほとんど使われず、大部分が手描きで表現されているというからすごい。男性は最終的に重力からも見放され宙を漂うようになるのだが、存在が消滅する危機にさらされても必死に抗おうと闘う姿は多くの共感を呼びそうだ。

3編とも、短編アニメーション映画ならではの実験的な精神に満ちた作品ばかり。しかも、単純に物語としてもおもしろく、主人公たちのちいさな勇気を通して深い感動をもらうことができる。まさに「平成最後の夏」の締めくくりに鑑賞するのに最適。スタジオポノックでは、今後も「ポノック短編劇場」から新作を世に送り出していくとのことなので、今後の動向も楽しみにしたいところだ。
●ポノック短編劇場『ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―』公式ページ
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