■なぜ部下を育てようとしないのか
なぜ「上司と部下」という関係性でありながら、何も指導をしてくれないということが起こるのか。野元さんいわく、さまざまな要因があるという。
「上司が部下を育てる気がないのは、自分にとってのメリットとデメリットをてんびんにかけたとき、メリットのほうが小さいからです。メリットには『やりたい』という自分の意思の実現もあれば『やらなきゃ』という周囲からの期待や要請もあります。見方を変えると『会社が部下を育てることを期待、要請していない』のです。これは上司が受ける評価や処遇の観点を見れば明らかです。『部下を育てても評価されない、給料も上がらない仕組み』なのです。部下の育成よりも売上を上げるほうが評価は高いなら、当然育てることは後回しになりますよね」(野元さん)
では、部下を育てようとしない上司には、具体的にどのような特徴があるのか。野元さんによると、同じ環境で部下育成に力を入れる上司像を紐解けば分かるという。
「部下を育てようとする人はどんな人かというと『育てられたことに感謝している人』や『会社の将来を自分の責任だと受け止めている人』です。このタイプを裏返してみると、部下を育てない上司の特徴としては『これまで上司や周囲から育てられた経験が少ない』あるいは『会社の将来に期待していない人』であるといえるでしょう。また、単純に『育てる余裕がない、育てられない』という場合もあります」(野元さん)
会社の環境が原因で、育成に力を注げないというパターンも大いにありえるのだ。
■部下ができる3つの「こと」
さまざまな事情により育成に乗り気ではない上司に当たってしまった場合、部下の立場ではどうすればよいのか。野元さんは3つの「こと」の実践を勧めてくれた。
「部下の立場でできることは『見ること』『決めておくこと』『仮説を持つこと』の3つです。『見ること』は、直接の教えをもらわなくても学べるということ。それは上司の行動や言動を見るという意味です。『背中を見て学ぶ』というと旧世代感がありますが、上司側としてもなんとか学ぼうとしない人には、教える気が起きません」(野元さん)
実際に上司の仕事を見て何かを得ることも大事だが、相手にその学ぼうという姿勢を示すことも大切なのだ。
「『決めておくこと』とは、上司と関わるルールを決めておくことです。そもそも、部下を育成しない上司には忙しい人が多いと考えられるため、教えてもらうタイミングが難しくなります。空気を読まず叱られるとやる気もなくすでしょう。『どんなときなら教えを乞いに行ってもよいか』『どんな話のかけ方なら応対してもらえるか』『どこまで準備してから声をかけるとよいか』など、互いの決め事をつくるのです。年度変わりなどのリフレッシュしやすい時期にルール決めを持ちかけるとよいでしょう」(野元さん)
教えてもらうタイミングを見計らううちに、何もできずに終わってしまうという経験はないだろうか。そんなことを避けるために、まずは教えてもらうルールを上司との間で定めておくのだという。
「『仮説を持つ』は、丸腰で教えを乞うのではなく『〇〇と考えましたが、あってますか?』と、こちらの仮説を先に出すことです。仮説なので、外れていてもかまいません。むしろ『違うんだよ、そこはね』と応対してもらえたら教えを乞うチャンスです。仮説を持つためにも、普段から上司を見ておくことも大切です。『以前、〇〇さんが〇〇されているのを見ましたが、ということは〇〇するとうまくいくということでしょうか?』と聞けば、上司も自分を振り返る情報が得られるため、話題への興味が増します」(野元さん)
大切なのは、ただ「教えてもらう」といった受け身の姿勢ではなく、自分でも能動的に動くということ。そして、それにも手法がある。教える気のない上司を動かすには、タイミングを見計らったり、失敗から学んだり、再度チャレンジするといったメンタリティも試されるだろう。自分ができる限りの行動を考え、起こすことが重要となるようだ。
●専門家プロフィール:野元義久
リクルート、マーケティング関連ベンチャー、一部上場企業の新規事業立ち上げを経て、組織人事コンサルティングへと転身。1600の営業チームにワークショップを行う。2015年、株式会社BRICOLEURを設立。企業内ファシリテーター養成の実績は1万人以上。日本ファミリービジネスアドバイザー協会フェロー。