■事実をきちんと伝えることが大事
そもそも、上司のパワハラが原因で部署を異動したいという場合、会社に「パワハラが原因」と伝えるのは得策なのか。疑問を原田さんにストレートにぶつけてみた。
「ケースバイケースですが、伝えるべきでしょう。パワハラが原因であることを伝えなかった場合は、異動が実現したとしても、問題の上司が同じ職場に異動してくる可能性も考えられるからです。一方で、異動などの人事上の判断は、会社の裁量の範囲になります」(原田さん)
原因を隠して異動できたとしても、相手も同じ部署に異動してきては、お先真っ暗だ。
「パワハラが理由と告げた場合でも、パワハラを止めるための指導など、会社側はまず、様子を見るだけの対応に留まるかもしれません」(原田さん)
自分以外にも明らかにパワハラを受けている人がいて、部署の雰囲気が悪くなっている場合もあるだろう。そのような場合でも、会社はそれほど動いてくれないのだろうか。
「自分以外がパワハラを受けている場合は、間接的であったとしても大きな不利益を被っていることを具体的に指摘することが肝要でしょう。こちらも、前述のように異動が解決方法ではない可能性が大きいです。パワハラ問題の本来の解決は、パワハラ行為の解消にあるからです」(原田さん)
「パワハラ」という言葉をむやみに使うと、事の重大さがあまり伝わらない場合もありそうだ。深刻な状況であるなら、事実関係を整理し、現状をきちんと伝えることが解決につながるようだ。
■つじつまが合わない理由はNG
スキルアップやキャリアアップのためにということを理由に、パワハラが原因であることをぼかして異動を聞き入れてもらうことは難しい。しかし、事情があってどうしても伝えられない場合もあるだろう。
「後からつじつまが合わないような理由にはしないことが、最低限必要です。外資系企業などでは、人事に人事権限がなく所属長に一任されているというケースが少なからずあります。異動を希望する職場の所属長に異動の内諾を取り付ければ、すんなり異動が通るのです。このような場合にも、所属長とどう交渉するのか、という課題は残ります」(原田さん)
本当の原因を、人事権限を持つ管理職に伝えるのが最善策だ。しかし、仮に違った理由を告げるなら、矛盾が出ないよう理由をきちんと考えておくことが大事だという。
■同僚と連携することも解決につながる
パワハラについて、どのような伝え方をすれば、会社側は動いてくれるだろうか。
「ハラスメントの問題への対応として、まず会社が取り組むべきものとしては、当事者間の隔離が挙げられます。つまり、具体的なハラスメントの内容と、業務の遂行が困難である、あるいは精神的に限界であることを会社側に理解してもらうことが前提になるでしょう」(原田さん)
また、原田さんは投稿内容について気になる点があると指摘する。
「投稿者が『自分だけ早く逃げたい』という意向を漏らしていることです。もし会社側にこうしたメッセージが伝わってしまった場合は、自分勝手や単なるわがままというレッテルを張られてしまい、会社での評価が下がる恐れがあります。最も望ましいのは、職場の同僚と連携して問題の解決を求めることです」(原田さん)
パワハラに苦しみ、どうしても今いる環境から離れたい場合は、自分の主観だけではなく、職場全体の事実関係の整理から始めるとよいだろう。そのような中で、どのような苦痛を受け、通常業務が遂行できなくなっていることを伝えることが大切だ。もし同僚も同じような境遇であるなら、連携を取ることも一つの手だろう。
●専門家プロフィール:原田恵一
1965年大田区生まれ。神奈川大学卒。証券会社の営業マン、会計事務所勤務、スポーツクラブの支配人などを経て、2005年社会保険労務士登録。トラブル解決支援、労務管理コンサルティングをメインに活動。これまでのトラブル相談件数は数千件を超える。