■コオロギが黒い色である理由
ゴキブリと間違われる、大きな要因の一つはその色と思われる。コオロギはなぜ黒いのだろう?
「それは、主な生息域が地面だからです。爬虫類などの天敵に見つけられないよう、土の色に近い色をしているわけです。ひと口にコオロギといっても、いろいろな種類がいて、草木の上で生活しているものは薄い茶色や緑色をしています」(海野さん)
ゴキブリの仲間に黒いのが多いのも、やはりコオロギと同じように地面で生活しているからだという。色は同じ黒い色であるとしても、コオロギとゴキブリでは明らかな違いがあるという。
「同じ昆虫であり、どちらも身近な存在ではあるものの、分類上は同じ科ではありません。見た目についても、ゴキブリは平たくて上から見ると楕円形をしている種類が多いのに対し、コオロギの仲間は厚みがあって角張っているものが多いです。あとは移動の仕方も違い、ゴキブリはカサカサと素早く移動することが多いものですが、コオロギはゴキブリよりはゆっくりと動き、太い後ろ足で飛び跳ねるように移動するのが一般的です」(海野さん)
見た目や動きが違うので、パッと見だけで殺虫剤を取りに走ってはいけない。
■鳴くのはオスのコオロギだけ
「鳴くのもコオロギの特徴」と海野さん。そういえばコオロギが鳴く理由は何だろうか?
「オスがメスを呼ぶためですね。よって鳴くのはオスだけです。なお、言葉にすると『鳴く』と表現しますが、哺乳類や鳥類が喉などを使って音を発するのとは違い、コオロギは羽根を細かく擦り合わせて音を出します」(海野さん)
童謡の『虫のこえ』に出てくるマツムシもコオロギの仲間だ。
「あとはスズムシもコオロギの仲間です。ちなみに、国内でよく見かけるコオロギの一つにエンマコオロギという種類がいますが、そのエンマコオロギの鳴き声も本当にきれいです」(海野さん)
■コオロギは東南アジアではポピュラーな食材
ところでコオロギは食べられるという話を耳にしたことがあるのだが……。
「まず、私は昆虫写真家であり、食料としての虫の価値については詳しくはないことを前提に話をさせてくださいね。海外で普通に食べられている虫であれば、食べることもありますが、私は食べるのはあまり好きではないです」(海野さん)
ではコオロギも食べたことは……。
「それが、あるのです(笑)。タイやベトナム、ラオスなどの東南アジアではポピュラーな食材です。味はというと、なかなか言葉で表現するのは難しいのですが、私が食べた虫のなかでは、おいしいほうでした。種類にもよりますが、コオロギは高級食品とされることもあるくらいです」(海野さん)
日本でコオロギは、秋の季語でもあり、その鳴き声は秋の音色といえるだろう。今回の取材を経た筆者は、コオロギとゴキブリは、まったく異なる、愛すべき存在だと再認識した。ただ、食すほど愛しているかと聞かれると……、まだその領域には至らないようである。
●専門家プロフィール:海野和男
日本自然科学写真協会会長。日本を代表する昆虫写真家で、テレビなどのメディアへの出演も多数。幼い頃から昆虫と写真が大好きで、東京農工大学卒業以来、フリーの昆虫写真家として、国内外で取材を続ける。1990年から小諸にアトリエを構え、身近な自然を撮影する。1994年写真集『昆虫の擬態』で日本写真協会年度賞受賞。『海野和男のデジタル昆虫記』も好評を博している。