■チーム数の違いはリーグ運営の理念の違い
プロ野球とJリーグでは、どうして、これほどまでにチーム数に違いがあるのだろうか?
「その理由の一つは、Jリーグとプロ野球で、リーグの運営システムが異なるからです。Jリーグは開放的なリーグシステム(オープンリーグ)を採用していて、極論すると、誰でもJリーグに参入できます。もちろん、地域リーグから始まり、J3、J2、そしてトップリーグのJ1へと上りつめるのは簡単ではありません。具体的には、J3からJ1にかけてのライセンス基準については、法人格を有していることや入会金と年会費(例えば、J1だと入会金6,000万円、年会費4,000万円)の支払い、適正規模のスタジアム(J1だと15,000人以上収容可能)を有していることなど諸々の審査基準をクリアすることが求められます。でも、それらをクリアできればOKで、それほど複雑というわけではありません」(押見さん)
知識があり資金繰りができれば、新規参入も見えてきそうだ。では、プロ野球はどうだろう。
「プロ野球は閉鎖的なリーグシステム(クローズドリーグ)を採用していて、誰でもリーグに参加できるわけではありません。野球協約にある厳しい参入資格(例えば、発行済み資本総額1億円以上の日本の法律にもとづく株式会社など)をクリアしつつ、各既存球団の代表者から成るオーナー会議にて参入が認められなければいけないのです。したがって、仮に参入基準をクリアできていたとしても、オーナー会議で認められなければ、リーグに参入できないというわけです」(押見さん)
リーグの運営システムの違いがチーム数の違いを生んでいるのだ。
「ちなみに野球はプロ野球の参入資格の制約を受けないリーグとして独立リーグが運営されていて、プロ野球に参入・入団できないチームや選手の受け皿になっています。話をプロ野球とJリーグの違いに戻すと、そこにはリーグ運営の理念が異なることが影響しています。Jリーグが47都道府県すべてにチームが設立されることを目指している一方、プロ野球にはそうした理念が明確に定められているわけではありません」(押見さん)
そもそも目標も違うとのこと。
■チームの多さは競技の普及につながる
ではプロスポーツにおいてチーム数の多いことのメリットはなんだろうか?
「各地域にプロチームがあることで、『全国民が、“おらが町のチーム”を応援するチャンスが増える』、『競技の普及につながる』などのメリットがあります。また、放映権ビジネスやスポンサー活動を全国で幅広く展開ができるのも特長で、その収益はリーグで一括管理・販売を行ったうえで各チームに分配されます」(押見さん)
反対にデメリットは?
「近隣エリアのチームと『お客さまの奪い合い』が発生する可能性があります。ただ、これは地域の特性や構造にもよるので必ず発生するデメリットとはいえません。また、チーム数が増えることで、戦力が各チームに分散し、1チーム当たりの戦力がダウンするという面もありますが、チーム数が増えて育成活動が活性化することで、全体が底上げされ、より多くのよい選手が生まれるという見方もあります。そう考えると、こちらも長期的には必ず起きるデメリットとはいえません」(押見さん)
Jリーグで言うと、大阪や埼玉、静岡は強豪チームが複数あるが、どちらかというと活性しているようにみえる。
■プロ野球のチーム数増はやはり難しい
今年の夏に大手ファッション通販サイト「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」を運営する株式会社ZOZOの前澤友作社長がプロ野球界参入への意欲を表明したが、新しいチームとしての参入の可能性はあるのだろうか?
「そのケースに限りませんが、お話したようにプロ野球とJリーグは採用システムが異なり、現状ではJリーグのようにチーム数が増えることは考えにくいです。その一方で、チーム数拡大(エクスパンション)の機運が高まり、オーナー会議で認められれば、チーム数が増える可能性がないわけではありません。ただ、プロ野球はフランチャイズ制を採用しているため、既存球団の保護地域を侵害せず、リーグのみならず、各チームが発展するような制度を設計して各球団オーナーの理解を得る必要があるでしょう」(押見さん)
プロ野球のチーム数を増やすための道のりはかなり険しいようだ。メジャーリーグのチーム数と比べても、プロ野球はもう少し数を増やしてもよいと思うのだが、はたして今後はどうなるだろうか。
専門家プロフィール:押見大地
東海大学体育学部スポーツ・レジャーマネジメント学科講師。アジアスポーツマネジメント学会副編集委員長、日本スポーツマネジメント学会編集委員、公益社団法人スポーツ健康産業団体連合会事業部会委員。スポーツイベントにまつわる現象を、マネジメント、マーケティングおよび消費者行動の理論を用いて解明・検証している。主な著書に『Jリーグマーケティングの基礎知識』(共著・創文企画)など。