■紅葉のメカニズム
まずは、葉の色をつくり出す色素について教えてもらった。
「緑色の葉には『クロロフィル』や『葉緑素』とよばれる緑色の色素と、『カロテノイド』系の黄色の色素が含まれています。『クロロフィル』は光合成に必要な要素で、『カロテノイド』は緑黄色野菜の栄養素としても知られています。この2つにより、植物の色として認識される濃い緑から黄緑の色が構成されています」(本間さん)
紅葉は木々の「冬支度」がカギになるとのこと。
「秋は気温が下がり日照時間が短くなります。光合成の効率が悪くなるため、落葉樹は不要になった葉を脱ぎ捨て、休眠状態に入る準備をします。落葉時には、葉と枝の境目に『離層』とよばれる組織がつくられます。これにより葉への栄養供給は停止され、枝だけの状態で休眠するのです」(本間さん)
動物の冬眠同様、落葉樹も冬は活動を制限するのだ。
「光合成は『離層』ができはじめる時期にも行われます。つくられた栄養は行き場を失い、葉の中の『液胞』とよばれる組織に溜め込まれます。そこで酵素を使い、『アントシアニン』とよばれる赤い色素に変換されるのです」(本間さん)
その「赤い色素」が紅葉のもととなるのだ。「美しく紅葉するためには、必要な条件がある」と本間さん。
「美しい紅葉には、昼と夜の寒暖差、日照時間、適度な水分が必要です。それらにより『アントシアニン』が増量し、『クロロフィル』が減少します。すると、もともと存在する黄色の『カロテノイド』とのバランスでグラデーションが出来上がります」(本間さん)
これらの色素の濃淡が、紅葉の色彩を生み出す。イチョウのように「黄葉」する樹種もあるが、色素のバランスによるものなのか。
「イチョウのような樹種は『アントシアニン』を生合成する遺伝子を持っていません。『クロロフィル』の緑色が抜け、『カロテノイド』の黄色のみが残り黄色くなるのです」(本間さん)
野山がカラフルに色付いていたのは、樹種の遺伝子の違いによるものだとわかった。
■「紅葉」する樹種、「黄葉」する樹種
どのような樹種で「紅葉」や「黄葉」が楽しめるのだろう。
「紅葉する樹種の代表格は、『イロハモミジ』、『ハウチワカエデ』、『ウリハダカエデ』などカエデ属の植物です。その他に、『ハゼノキ』、『ヤマウルシ』、『ハナミズキ』などがあります。黄葉する樹種では、『イチョウ』や『カツラ』が有名です。カエデ属の『イタヤカエデ』も黄葉します」(本間さん)
それぞれの樹種で“紅葉スイッチ”が入るタイミングは異なるとか。
「樹種により、休眠状態に入る気温が異なります。多くの種が存在する山では、『ハゼノキ』や『ヤマウルシ』から、『イチョウ』、『カエデ属』と順に色付き、段階的に楽しめます。『ツバキ』や『タケ』など濃い緑の常緑樹が背景にあると、コントラストが見事ですよ」(本間さん)
紅葉が保たれる期間は、1週間から10日間と短い。順に色付いていく様子を見届けてみたいものだ。
■おすすめの紅葉スポット
紅葉を楽しめる、本間さんイチオシのスポットを紹介してもらった。
「関東地方では、東京都港区の『根津美術館』、神奈川県横浜市の『三溪園(さんけいえん)』がおすすめですね。奥多摩では早い時期から紅葉が見られます。クリスマス頃に都会で楽しめる遅い紅葉も見ものです」(本間さん)
関西のおすすめスポットも聞いてみた。
「京都の東福寺や府立植物園、大阪府箕面市の箕面公園はもちろん、岐阜県多治見市の『虎渓山永保寺(こけいざんえいほうじ)』の紅葉もとても美しいです。奈良県宇陀市のワールドメイプルパーク、奈良カエデの郷『ひらら』もおすすめです。カエデ研究家のレジェンドと言われる矢野正善氏が作出、収集した、世界中のカエデコレクションを見ることができますよ」(本間さん)
樹種や地域によってさまざまな表情が楽しめる紅葉。今回のお話から、人間や動物のように樹木が冬支度をする中で、偶然織り成される自然美であることがわかった。そんなメカニズムを踏まえて見ると、今年の紅葉はより味わい深く感じられるかもしれない。
●専門家プロフィール:本間 篤史(株式会社もみじかえで研究所)
株式会社もみじかえで研究所代表。もみじとかえでの葉の成分を研究し、健康、美容効果のあるもみじ茶やもみじエキス、もみじのサイダーなどを開発、販売する。岐阜県多治見市を、農業、食品産業、観光業を包括した世界一のもみじの町にすることを目指している。
画像提供:ピクスタ