■さくらに怖さを感じる人も……
上記の投稿者は、「特別、さくらにまつわる暗い過去やトラウマのようなものも無いと思うのですが」ということで、特に理由もなくなんだかさくらに怖さを感じている様子。
たとえば庭にさくらを植えると、家が栄えない。平安時代にはさくらを愛でる文化があったが、戦国、江戸時代にはさくらには不吉なもの、縁起の悪いイメージがあった――などのさくらのちょっと怖い話も確かにあるようである。
果たしてこれらのいわれの真意のほどはいかに? 樹木医の浅田信行さんに話を聞いてみた。
■庭に植えると家が栄えない!?
「『庭にさくらを植えると、家が栄えない』についてですが、私はそのいわれの真意まではわかりません。ただ私見ですが、さくらに限らず生物はよほど広い占有場所を持たない限り、周囲の生物と競争しながら生きています。さくらが大きく育つと周囲の樹木は影響を受け、生育不良や枯死することになります。これは大木になるものと小型のものが競争すると、避けられない宿命です。この宿命を和らげるのが人の手による手入れです」(浅田さん)
庭にさくらを植えると、家が栄えない――。この真意のほどは、残念ながら今回の調査では明らかにはならなかった。だが、さくらが大きく育つと、周囲の樹木は影響を受けてしまうとのこと。さくらだけ大きく成長し、他が枯れていく姿に、当時の人は何か不吉さを感じたのかもしれない。
■戦国、江戸時代にはさくらには不吉なもの、縁起の悪いイメージがあった!?
戦国、江戸時代に、さくらには不吉なもの、縁起の悪いイメージがあったと聞く。このいわれについては、いかがだろうか?
「『戦国、江戸時代にはさくらには不吉なもの、縁起の悪いイメージがあった』という件ですが、こちらもそのいわれはわかりませんね。ただ、同じく私見になりますが、さくらがぱっと咲き、ぱっと散ることに、縁起が悪いと思う人もいたかもしれませんし、人の生き様として、さくらに潔さを見ていた人もいたと思います。その花の咲き方に想いをはせ、さくらを愛する人も多いのではないかと思います」(浅田さん)
たしかにさくらの開花は一瞬であり、時期を過ぎると、たちまち散ってしまう。そうした花の様子を関連付け、人の一生や、縁起の悪さを指摘した人はいたかもしれない。最後に、浅田さんがさくらにまつわる怖さについて、こんな見解も寄せてくれた。
「さくらは、特に古木巨木は、死者の鎮魂や慰霊のために植えられた所が多々あり、そして、そのようないわれがあることに人々が霊的なものや、怖れを感じているのではないかと思います。また、西行がさくらの下で死にたいと詠ったこと等も影響しているのかもしれません」(浅田さん)
いかがだっただろうか。さくらには怖さを感じさせる一因もないとはいえないのかもしれないが、やはりそれ以上に、美しさが際立つ花ということに間違いはないだろう。ちなみに皆さんが一度は聞いたことがある「桜の樹の下には屍体が埋まっている」は、小説家・梶井基次郎の短編「桜の樹の下には」の冒頭の一節、こういった情報が知らず知らずのうちに脳内に刷り込まれ、さくらに美しさと同時に怖さを覚えるのかもしれない。
お花見の際はチラッと、こんなさくらの意外な一面についても考えながらも、皆で楽しくさくらを愛でたいものである。