結婚式は準備に半年から一年程度を要し、費用もそれに比例して高額化する傾向がある。もしも多額の費用がかかった結婚式を、コロナ禍の影響を理由にキャンセルする場合、そのキャンセル料はどうなるのだろうか。話を聞いてきたのは富士見坂法律事務所の井上義之弁護士だ。
■キャンセル料を払うべきかどうかはコロナの影響次第
まずは単刀直入に新型コロナの影響で結婚式をキャンセルした場合、契約書や約款などに規定されたキャンセル料を支払わなければならないのかどうか聞いてみた。
「コロナの影響が極めて深刻な場合、契約上の不可抗力条項に該当する、あるいは、当事者双方の責めに帰することができない事由による履行不能(民法536条1項、542条1項)に該当するとしてキャンセル料の支払いを免れる余地はあります。しかし、緊急事態宣言が解除されている場合や、緊急事態宣言下であっても一定の対策のもとで結婚式が開催できる場合については、上記に該当するとまではいえず、キャンセル料を払わなければならない可能性が高いと思われます」(井上義之弁護士)
新型コロナの影響力がそれ相応に認められればキャンセル料免除の可能性があるとのこと。
「ただし、結婚式場から請求されたキャンセル料に『事業者に生ずべき平均的な損害を超える部分』がある場合はその部分が消費者契約法9条1項により無効となり、全額を支払う義務まではないことになります」(井上義之弁護士)
■キャンセルする場合の具体的な交渉
では次に結婚式をキャンセルする場合、式場側とどのように交渉するべきか伺った。
「先ほど申しました通り、コロナを理由にキャンセルした場合でも、法的にはキャンセル料の支払義務を免れないことが多いと思われます。そこで、結婚式をキャンセルする際は、式場側に対して、誠実に事情(例えば、出席予定者に高齢者がおりコロナの影響が残る中で出席させるわけにいかない等)と要望を伝え、式場側の理解・協力を求めていくのがまずは穏当であろうと思います。実際、顧客の要望に応じて、キャンセル料を不要としたり、キャンセル料を減額するといった対応をする式場はあるようです」(井上義之弁護士)
まずは正直に事情を明かして、誠実に話し合うことが良いとのことだが、それでも難色をしめされた場合はどうすればいいだろうか。
「式場側がキャンセル料の減額等に消極的な場合は、結婚式場から請求されたキャンセル料に『事業者に生ずべき平均的な損害を超える部分』があるとの主張が交渉材料になるでしょう。とりわけ、コロナ禍の中にあっては、結婚式場の利用者自体が大幅に減少しており、平均的損害の一部を構成する“キャンセルに伴う機会損失”も減少している、したがって、請求されたキャンセル料のかなりの部分が平均的損害を超えている、といった主張ができるもしれません」
■旅行をキャンセルする場合のキャンセル料は?
最後にコロナ禍を理由に旅行をキャンセルする場合について聞いてみた。
「『標準旅行業約款』の募集型企画旅行契約の部第16条第2項第3号は、『天災地変、戦乱、暴動、運送・宿泊機関等の旅行サービス提供の中止、官公署の命令その他の事由が生じた場合において、旅行の安全かつ円滑な実施が不可能となり、又は不可能となるおそれが極めて大きいとき』に旅行者がキャンセル料を支払うことなく契約を解除できる旨を定めています。このような約款の適用がある旅行契約は、例えば、渡航予定国がコロナ禍により日本人の受入れを禁止した場合などに、キャンセル料の支払いなしに契約を解除することができるでしょう」
結婚式も旅行も、どちらにしてもまずは契約前に約款をしっかり確認することが重要だろう。それでも問題が起こってしまったときは専門家に相談することをおすすめする。
専門家プロフィール:弁護士 井上 義之(第一東京弁護士会) 事務所HP ブログ
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記事提供:ライター o4o7/株式会社MeLMAX
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