■マニュアル車の運転方法のクセが抜けない
お話を伺ったのは、自動車運転アドバイザーの細川一夫さん。
「現在70歳以上の年齢の方が20歳前後で免許を取得されていた場合、その当時(1970年代頃)に市販されていた車のほとんどがマニュアル車だったことから、操作方法のベースがマニュアル車のものになっていると考えています」(細川さん)
オートマチック(AT)車が急速に普及し出したのは1980年以降だという。では、マニュアル車の停車時の操作方法はどのようなものなのだろうか。
「バックでも、前進でも、目標停車位置まではアクセルを軽く踏みながら半クラッチで動力を伝えて動き、停車する直前にクラッチを切る(踏む)のと同時にアクセルペダルからブレーキペダルへ踏み替えて停車させます。つまり、停車する直前まで右足がアクセルペダルの上にあるのがマニュアル車では正しい操作方法なのです」(細川さん)
一方、これがAT車ならクリープ現象を使い、右足はブレーキペダルの上に置いて操作するのが基本となる。
「これが今の高齢者やその予備軍の方のペダル操作の癖になっているのではないかと私は考えています。事実、以前に高齢者の方に右足をアクセルに置いておく理由を聞いた際にそのような回答を複数得たことがあります」(細川さん)
さらに、正しいAT車の操作方法を習っていないことも要因のひとつだと細川さんは続ける。
■思いきりブレーキペダルを踏む練習が効果的!
「普通自動車免許にAT限定免許が加わったのは2007年6月からです。これによりAT車だけでなく、マニュアル車で普通免許を取得する方にも、教習項目21 『オートマチック車 (AT車) の運転』、教習項目22 『AT車の急加速と急発進時の措置』というものが新たに加わりました。AT車特有のクリープ現象やキックダウン、各レンジ(ギア)の意味や使い方の注意点を指導するのですが、特に大切なのは『AT車の急加速と急発進時の措置』です。段差教習ともいいます」(細川さん)
段差教習とは、段差にタイヤを当てて車を停め、アクセルを強く踏み込んで段差を乗り越え、急発進したらアクセルからブレーキペダルへ瞬間的に足を踏み替えて急停車させる練習だ。
「私はペーパードライバーの方が練習を始める前に、必ず練習するようにすすめています。また、高齢者の方が免許を返納するかどうかの基準のひとつとして、このペダルの踏み替えが素早く、力強く出来るか、がポイントになると考えています。これができないということは、何かあったときに安全に停車できないということになりますから」(細川さん)
しかし、2007年以前に免許を取得した人は、この教習は受けていないという。
「アクセルペダルからブレーキペダルへ瞬間的に強く踏み替える練習を行うだけでも効果的です。思いきりブレーキペダルを踏むことは普段ではあまりありませんから、ぜひ実践してみてください。いざという時に必ず役に立つと思います。ただし、安全な場所を選び、周りに迷惑がかからないかなどに注意して行ってくださいね」(細川さん)
高齢者が踏み間違いを起こす原因には、さまざまな要素があるが、細川さんによると、「マニュアル車とAT車では運転の仕方に違いがあることを認識して、特にAT車では正しいペダル操作を実践することが大切です」とのこと。さらに、「停車する直前まで右足がアクセルペダルの上にある理由」には、加齢による体の変化も関わっているというのだ。次回のコラムで引き続き紹介する。
●専門家プロフィール:細川 一夫
自動車運転アドバイザー。ペーパードライバーや、初めての免許取得などで困っている人を対象に、各種教材を作成し個別サポートを行う。保有資格は公安委員会認定、教習指導員資格(国)。
(酒井理恵)