■停止直前の右足に要注目
お話を伺ったのは、自動車運転アドバイザーの細川一夫さん。
「コンビニや駐車場などに停車する直前の動作に問題があります。停車をしようとする時はバックであれ前進であれ、徐行するために右足はブレーキペダルの上に置き、クリープ現象(アクセルを踏まなくても車がゆっくりと動き出す現象)の力を使って操作をするのが基本です。しかし、高齢者の方は停車する直前まで右足がアクセルペダルの上にあり、停まる時になってからやっとブレーキペダルに踏み替えて止まる方が非常に多いです」(細川さん)
この操作を普段からしていると、パニックになったときにアクセルペダルを踏みこんでしまい、車が暴走するのだそうだ。
「本人は、ブレーキペダルを踏んでいるつもりなのです。基本通りブレーキペダルの上に足を置いて操作していれば、パニックになってペダルを踏み込んでも、車は止まるだけです」(細川さん)
また、有料駐車場などの出口で料金を支払う際にも急発進事故がよく起きるという。
「これはDレンジに入れたまま無理な姿勢で支払操作を行い、ブレーキペダルから足が離れてしまい、慌ててブレーキペダルのつもりでアクセルペダルを踏んでしまうのが原因です。これもPレンジに入れて駐車ブレーキを掛けて支払を行えば確実に防ぐことが出来るものです。高齢者だけでなく、すべてのドライバーが横着をせずに、一番安全な方法を選ぶことが大切です」(細川さん)
横着をするという点では若いドライバーにも当てはまりそうだが、なぜ高齢ドライバーは大事故につながってしまうのだろうか?
■80歳以上の約7割が「運転に自信がある」と回答
「加齢による反射神経など運動機能の低下が原因だと思います。しかし、それ以上に高齢になると根拠のない自己の運転技術に対する自信と、安全意識やマナーの低下が重大事故につながっていると私は考えています」(細川さん)
2017年、MS&AD基礎研究所が日常的に自動車を運転している全国の1000人を対象に行ったアンケート調査によると、80歳以上の約7割が「運転に自信がある」と回答したそうだ。
「しかし、実際には加齢により運転能力は低下しています。このギャップがアクセルとブレーキの踏み間違いなどの誤操作につながり、リカバリーもできないために悲惨な事故が起きていると思います」(細川さん)
■東京都が動いた! 自己負担1割で事故防止装置の取り付け可能に
しかし、いくら運動能力の衰えを自覚していたとしても、特に地方居住者にとって、すぐに車の運転を止めることは容易ではない。その場合の対策について聞いてみた。
「最近ではワンペダル型など、さまざまな急発進制御装置が次々と開発されていますので、ご自分の車や好みに合ったもの選ぶのがベストだと思います」(細川さん)
ワンペダルとは、事故を防ぐためにアクセルとブレーキを一体化させたペダルのこと。今の車に取り付けることができ、新車に買い替える余裕がないという人でもできる対策だ。料金は20万円前後と少々値が張るが、東京都はアクセルとブレーキの踏み間違いを防止する装置などを付ける高齢者に対し、その費用を9割補助する制度の開始を発表した。7月31日から対象事業者に申し込めば、自己負担額は大幅に抑えられる。
「しかし、最終的に運転操作を行うのは『人』です。ハード面に頼るだけではなく、前述しましたように謙虚な姿勢で自己の運転能力を見極め、正しく安全な運転方法を身に付け、それを実践していただきたいと思います。一番大切なのは車を安全に運転しようとする『安全意識』を強く持つことです」(細川さん)
もうすぐお盆休み。家族で集まり、この問題について話し合ってみて欲しい。
●専門家プロフィール:細川 一夫
自動車運転アドバイザー。ペーパードライバーや、初めての免許取得などで困っている人を対象に、各種教材を作成し個別サポートを行う。保有資格は公安委員会認定、教習指導員資格(国)。
(酒井理恵)