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遺伝学的保全を行なう意味とは、一体なんでしょうか?
現在、絶滅危惧種の保護など、さかんになっていますが、
いまいち意義が飲み込めません。

たとえば、「生物資源」が減少するといったことなんでしょうか。

様々なご回答、よろしくお願いします。

A 回答 (1件)

 今日,種多様性という言葉にかわって,生物多様性という術語が多く用いられています.生物多様性とは,遺伝子,種,個体群・群集,生態系などのすべての階層の多様性を指します.


 従来は,貴重な植物が自生していれば自生地を柵で囲って「保護」したり,移植して株を「保護」していたものですが,現在では「保全」へと方向性が変化しております.保全には,種子などをジーン・バンクなどで保管するex situ保全と,本来の生育場所で存続可能な集団や将来の生物進化のポテンシャルまでの,生物多様性全てを守るin situ保全があります.in situ保全では,将来にわたって集団の存続を確実にするために,環境条件を保全するだけでなく,種内の遺伝的多様性を保全する必要があります.
 我々人間でも,体力のある人,すぐ風邪をひく人・・・など様々ですが,野生生物でもさまざまな遺伝的な違いがあります(見た目には一緒でも).急激な環境の変化が生じた際に,遺伝的多様性が低い場合には環境の変化に対応できずに絶滅してしまうことも考えられます.極端な場合,一つの集団がすべて遺伝的に同一なクローンであった場合,一つの環境条件の変化で全て絶滅することもあり得ります.また,遺伝的なボトルネックを被った場合には,遺伝的多様性がもとの水準まで回復するには,かなりの年数が必要だと言われています.
 また,遺伝的多様性が低い場合で交配が進んだ場合(近親交配)には,有害劣性遺伝子がホモ接合になることで,近交弱勢を発現することが知られています(すなわち,近親交配が進行することで健全な後代が得られない).
・・・ などなど,の理由により,遺伝的多様性はそれ自体が生物多様性の要素として保全しなければならないだけではなく,種や個体群の存続可能性に大きく関わるので,保全する必要があるのです.

 また,質問の欄で仰られているように,種単位の遺伝的多様性は生物資源としても重要です.特に,遺伝的なものに着目した場合には「遺伝子資源」と呼びます.現在は,遺伝子組み替え技術の進歩によって種の壁を越えた品種の作出が可能であり,今まで遺伝資源としてなんの着目もされていなかった種が,突如重要な「遺伝子資源」となり得ります.したがって,すべての生物が資源としての価値を持っていると言えましょう.たとえ,我々が雑草と思っているような植物でも,実は重要な「資源植物」であったりするのです(庭では除草の対象でも,栽培植物の近縁種で研究がものすごく進んでいるモノもあったりします).
 中国やブラジルなどでは,自国の生物は次世代の最重要「資源」として,外国人研究者の研究や採集などを厳しく制限しています.日本は,この点の自覚がまだまだ足りなく,外国人研究者に殆ど制限はありませんが・・・・

 現在,植物の場合,高等植物の6種に1種は絶滅の恐れがあると言われており,その原因は経済社会活動の変化などによって引き起こされた環境条件の変化によるものが多くを占めます.最近は水田周辺などの日本文化を形成してきた二次的自然環境の人為的変化で,多くの生物が絶滅の危機に瀕しています.それだけ多くの生物が絶滅の恐れにあるということは,そういった環境条件下で生活する我々人間自身の存続や,農耕といった産業にもイエローカードが出されているのかも知れません.数が減った生物が再び生育できる環境を取り戻すということは,我々の生活や農耕などにとっても良い環境を取り戻すことである,とも言えます.そのためには,やはり種・種内の遺伝的多様性維持のメカニズムを解明し,それが存続する環境へ導いていく必要があります.

 このような理由によって,遺伝学的保全は今後更に必要であると言えましょう.
 蛇足ですが,生物の保全と各国間における生物資源の公正で平等な分配(資源のフェア・トレード)を定めた生物多様性条約が締結されて以来,我が国でも生物多様性国家戦略を正式に定めています.

この回答への補足

非常に明解なお答えで、大変よく理解できました。
有難うございます。

素朴な質問で、恐縮なのですが、
「ex situ保全」と,「in situ保全」の
読み方を教えていただけませんか?

「エックス シツ 」なのかな?と。
正しい読み方を知らないと後々後悔しそうなので(^^;)

補足日時:2001/11/12 09:35
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