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私は先日、萩尾望都の「銀の三角」を読みました。SFというよりもファンタジーともいうべき、幽玄、幻想の宇宙観にすっかり陶酔しきっています。
しかし、細かい世界観、ストーリーがまったく把握できません。具体的にわからないのは次の点になります。
・ラストでエロキュスが死んだとはどういうことか。いつ、死んでいたのか
・なぜエロキュスの死がパントーの死を回避させることになるのか
・パントーの叫び声が時空の結晶を壊すとは、どういうことか。
・ラグトーリンのいう「夢を食べる」とはどういうことか。
・そもそも夢の結晶と何か。
・結局、神のような力を持つヒロイン、ラグトーリンの正体は何か。
・なぜ主人公たちは3万年前のミューパントの星へわざわざ飛ばされたのか。

こうして挙げてみるとわからないことだらけです。元々詳細な設定があるかどうかも怪しくなってきました。それでも、どなたか設定をご存知の方(もしくは設定を想像している方)がいらっしゃればよろしくお願いします。

A 回答 (1件)

なかなか回答がつかないようなので、私の個人的な解釈でよろしければ……。


「銀の三角」はとても緻密で難解な物語なので、私も最初に読んだときは雰囲気を味わうだけでさっぱり分かりませんでした。
(出来るだけ分かりやすく整理して書いたつもりなのですが、上手くまとめられず非常に長くなってしまいました。読みにくいと思いますが申し訳ありません)

登場人物がややこしいので、まず整理として……
マーリー1(赤砂地で死亡したオオリジナル)
マーリー2(ルルゴー・モアの記憶が混入。物語後半におけるエロキュス)
マーリー3(マーリー1とほぼ同一)
ルルゴー・モア(エロキュス。マーリー1が殺した)
パントー(リザリゾ王の王子で小さな銀の三角人)
ミューパントー(ディディン。三万年前の最後の銀の三角人)
……としますね。また、どうしても回避できない(回避したい)出来事として、
○パントーが異形音を発する。(ラストで回避された)
○マーリーがエロキュスを殺す。(回避できなかった)
ということがあります。


・エロキュスはいつ死んだのか
ラスト直前でマーリー3が瀕死のミューパントーをつれて彼の星にやってきますが、その時ノヴァの光が届き、三万年前とマーリー2のいる時空がつながりました。ここで再びマーリーとエロキュスが出会ってしまい、不可避の出来事として条件反射のようにマーリー3は銃を構え、マーリー2(エロキュス)を殺しました。
(その後、岸辺でマーリー2が生きていることについては後述します)
このあたりは作中で最も幻想的なシーンなので、分かりにくいですよね。

・なぜエロキュスの死がパントーの死の夢を回避させたのか
これは物語の肝だと思うのですが、私にもはっきりとは分かりません。
簡単かつ合理的に考えると、【エロキュスが歌う銀の三角の歌をパントーに聴かせればすべては解決→ノヴァによって時空がつながりエロキュスが歌を思い出す→死の間際にエロキュスが歌う→パントーの影はいつもエロキュスのそばにいたので、その時にパントーが銀の三角の歌を聴く→エロキュスは死んだが解決した】ということかもしれません。
ただそれでは素っ気ないですし登場人物の感情面がついていかないので、以下はあくまで憶測になります。
パントーは生まれてからずっと父親に殺され続け、愛を知らずに育っています。パントーが死の間際に発した「異形音」は絶望の叫びであり、もし彼が愛されて育っていたら発せられなかったはずの声です。
「異形音」は絶望したパントーが運命から逃れるために、初めて自分の意志で起こした行動です。『最初で最後の声』『初めての、そして最後の自発的な行動』です。
そんな中で、マーリー2(エロキュス)は唯一彼のことを気にかけ、たくさんの歌を聴かせてくれ、愛し慈しんでくれた存在なのではないでしょうか。
パントーはエロキュスに死んでほしくはなかった。
だからマーリー2(エロキュス)がマーリー3によって殺されようとしている時、パントーは何か『自発的な行動』を起こしたのではないでしょうか?何か絶望の叫びではない声を発したのかもしれません。
作中に具体的に描かれてはいませんが、ラグトーリンが〈パントーがあなたをここに送り――〉と言っています。リザリゾ王に殺される度に、殺される前に体を戻して生き延びてきたパントーです。マーリー2が殺された時、彼の体を殺される前に戻し(彼も時空人でしたし、他人でも可能?)、かつチグリスとユーフラテスの岸辺に送ったのかもしれません。
パントーがこのような行動を起こしたのならば、『最初で最後の声』であり『最初で最後の自発的な行動』である「異形音」とは矛盾が起こりますね。すなわち「異形音は発せらせない」となるのではないでしょうか?
マーリー2のパントーへの愛が彼を救った、とちょっとロマンチックに言うと分かりやすいかもしれません。

・パントーの叫び声が時空の結晶を壊すとは
これはラグトーリンが説明している通りだと思うのですが、結晶云々はたとえだと考えた方が分かりやすいと思います。(そもそもモザイク云々がたとえ話なのですが)
四角形のタイルが敷き詰められた面に三角形や五角形のタイルをはめ込もうとしても出来ないわけで、無理に入れようとすると他のそろっている四角形のタイルもそろわなくなってしまいます。
パントーの叫びは、この世界を存続させるためにはあってはならないもの。歪みです。だからそれを回避するためにラグトーリンがいろいろとやっているわけです。

・ラグトーリンの正体/「夢を食べる」
これも憶測ですが、主人公マーリー1は社会を安定させるための仕事に就いています。不穏分子を見つけたらあらかじめ始末しておく、という仕事ですね。このためマーリー1はルルゴー・モアを殺すのですが、ラグトーリンもマーリーのような仕事をしているのではないでしょうか? 
ラグトーリーンはそのものズバリ神様なのかもしれませんし、マーリーたちの世界を管理する世界があって、その住人ということなのかもしれません。面白い入れ子構造だと思います。
特にこの作品ではいくつもの可能世界が入り混じってとても複雑です。
「夢はすべて起こりうるもの」とラグトーリンが言っている通り、現実≒夢、夢を食べる≒不安要素を取り除く、ということではないかと。

・夢の結晶
結晶というのが一番詩的かつ的を射た言葉だと思うのですが、無粋な言葉をつかって例えてみると……要所というか、重要な事柄、ターニングポイント的なもの、かもしれません。
夢=現実、です。
パントーの「声」は、繰り返す時間、世界、次元のなかで、また起こりえる事態かもしれません。
確実に阻止するためにはストッパーが必要なのでしょう。パントーや銀の三角人のことを覚えている存在が。それが「夢を食べた」マーリー2(エロキュス)なのではないでしょうか。だからエロキュスは川辺で永遠に生き続ける必要があるのです。

・なぜ主人公たちは三万年前に飛ばされたのか
合理的に考えるとマーリー2(エロキュス)に歌を思いださせるための布石ですが、それ以外にもいろいろと意味はあるのではないかと思います。
これもまた憶測になりますが、ミューパントーを彼の星に連れて行く必要が、「銀の三角人を救う」必要があったのかもしれません。
銀の三角人は予知能力を自ら封じてしまいました。そしてマーリー3は〈耳もことばももたぬ子供(パントー)は封じられた印そのものではないか〉と感じています。その視点で見ると、パントーは銀の三角人の悲しい運命そのもの、パントーの発する「異形音」は銀の三角人の絶望の叫びそのもの、ということにもなります。
ここで、パントーを救う=銀の三角人を救う、という図式になってくるわけで……。
マーリー3は襲撃を回避せず結局ミューパントーは死んでしまいましたが、その意識はノヴァの光の中で消えて行くことになりました。
そしてそこでマーリーはエロキュスを殺し、そこから物語冒頭の銀の三角人たちの婚礼の祭りのイメージが象徴的に挿入されています。おそらく、あの婚礼の祭りは銀の三角人たちが幸せに暮らしていた時代のものでしょう。
銀の三角人にとって光は特別なものです。ノヴァの光の中で死んでいったことで、ミューパントーは少なからず救われた……のではないでしょうか?
(ブール博士が〈地下の洞窟から反響してあらゆる地上への小口からふきだし/さながら何千人もの合唱のように響いていたという〉と言っているように、幻だとしても幸せだった頃に帰ることが出来た、のかも?)
それがマーリー3が三万年前に飛ばされた理由ではないかと思います。
いかがでしょうか。

これはあくまで私なりの解釈ですので、もっと他に的確な指摘をしてくださる方がいるでしょう。
いろいろと検索をしてみれば考察サイトのようなところがあると思います。また、なによりも自分で感じて考えて、自分なりの答えを出してみてはいかがでしょうか。
完成度が高いだけに、様々な解釈を許すのが萩尾望都の漫画だと思っています。「銀の三角」を十分に楽しんでみてくださいね。
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この回答へのお礼

ご長文の回答ありがとうございました。
最後の場面でエロキュスがマーリーによって殺されていたことには、全く気付いていませんでした。
思いもよらない解釈を提示され、私の作品をみる視野も広まったと思います。
これからも銀の三角はたびたび読み返してみたいです。

お礼日時:2009/06/22 08:45

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