高齢の伯母を、その弟である父が面倒を見ています(いわゆる、姉弟間の老々介護です)。夫である伯父は既になくなっており、伯母には2人の実子(私にとっての、いとこ)がいますが、全く伯母の面倒を見ようとせず、父も伯母も呆れています。
この度伯母から、父への負担付死因贈与(公正証書付き)の話が出ています。「負担付でないと、息子2人が納得しない可能性がある」とのことです。父によると、何度も伯母の面倒を見るように、甥に話したそうですが、一向にその素振りを見せないため、「母の面倒も見られない息子(父にとっての甥)よりも、自分の方が…」との気持ちを強めているようです。ただ、父も高齢で、伯母よりも先に他界すれば、父のくたびれ儲けになってしまうと理解しています。
そこで質問させていただきたいのですが、
1.父が先に他界した場合、それまでの介護頑張り分を、その子供である私が請求することはできるのでしょうか?
2.父と伯母の間で結ぶ公正証書に、「父が先に他界した場合、権利義務関係を私と妻が継承する旨を織り込む」ことは可能でしょうか? なお、伯母名義の財産は、現金の他、自宅、賃貸アパート2棟及びそれに伴う駐車場です(債務は不明です。また登記簿謄本などを確認したわけではありません)。下世話な話ですが、妻も「アパート1棟くらいいただけるのであれば、平日に介護に行く」と言っています。
3.その他、アドバイスを頂戴できると幸甚です。
No.2ベストアンサー
- 回答日時:
死因贈与契約というのは,ちょっと難しく言うと「贈与者の死亡を始期とする始期付き贈与契約」です。
その始期の到来により効力が発生する契約で,効力発生前の受遺者の死亡は,契約の「誰々に贈与する」というもっとも重要な部分の達成が不能になるため,単純に判断すれば無効になりますが,契約に予備的条項(効力発生時に受贈者が死亡しているときはその相続人がその権利を承継する,等)があれば,相続人による受贈も可能でしょう。それがない場合が問題で,贈与者の意図を斟酌することによりその実現を図ることがあるのですが,その意図が,個々の事例により,相続人の承継を認めるものであったり,逆に認めないものであったりすることがあるため,その点で利害の反する人(一般的には,贈与を認めると相続財産が減ってしまう相続人でしょう)との争いになり,裁判で決着をつけざるを得なくなったりします。なのでその権利を承継したいのであれば,そこはきちんと契約に盛り込んでおき(遺言であれば予備的遺言というものがあります),もしも義務承継もするのであればなおさら,その承継者も当時者に加えた形で契約すべきではないかと思います。もしも奥様も介護をなさるのだとしたら,奥様の労を正当に評価するためにも(奥様は質問者のお父様の相続人ではないので,相続人承継条項があっても権利承継できません),奥様も当事者として参加してもらうことも考えるべきかもしれません。
ただ,その後にある登記という手続きを考えた場合,死因贈与はちょっと面倒だったりします。
死因贈与は,相続のように権利承継者が単独申請できるものではなく,登記権利者と登記義務承継者の共同申請によって行うことになる手続きです。登記権利者は質問者のお父様でここは問題ないとしても,登記義務承継者は伯母様の相続人の全員,つまりは伯母様の実子2人(他に相続人がいない場合)になります。叔母様が亡くなり,いざ登記となったとき,この2人は叔母様から登記義務を承継しているのでその登記に協力しなければならないのですが,感情のもつれ等からもしもこの2人が協力してくれないとなると,登記ができません。いくら公正証書で負担付死因贈与契約書を作っても,公正証書には金銭の支払い以外についての執行力はないので,協力が得られない場合には裁判で勝つしかなくなってしまうのです。
これがもし遺贈であるならば,登記はやはり登記権利者と登記義務者の共同申請になるものの,その登記に関する遺言執行者を質問者のお父様にしておけば,お父様一人で登記手続きをすることが可能になります。遺言を公正証書にしておけば,遺言の正本が手に入らなくても公証役場で謄本を入手することができるので,手続きは断然容易になります。
ですが,死因贈与は仮登記(始期付所有権移転仮登記)ができるのに対し,遺贈はそれができないという違いもあります。これは死因贈与のメリットといえるでしょう。
細かい点ではありますがいろいろ違いがあったりするので,どうしたらよいのかは,伯母様とそのご子息たちと質問者様側の関係から,できるだけ皆が気持ちよく収められるような方法を考えて選択すべきかと思います。
ところでその死因贈与は,伯母様の遺産のどの程度を占めるものになるのでしょうか?
伯母様のご子息には遺留分(民法第1028条)が認められますので,遺留分を侵害する程度の死因贈与だと,遺留分減殺請求をされるおそれがあります。負担付贈与の減殺請求に関する民法の規定もある(民法第1038条)ものの,兄弟姉妹には扶養義務がある(民法第877条)ので,それがどの程度評価されるのかわかりません(義務があるということから,裁判所の評価はけっこう低かったりするようです)。
伯母様亡き後,親族関係をこじらせるのは,気持ちのよいことではありません。この点はまず気をつけておくべきことだと思います。
またそれ以外に高齢者が重要な財産の処分行為等をするときに気をつけなければならないのは,その行為時点での意思能力の問題です。
たとえば遺言無効の訴えが起こされる原因のひとつとして,遺言者は当時認知症だったということを理由にされることがあったりします。遺言をするには遺言能力がありさえすれば成年後見人であっても可能(民法第961条~963条)で,もしも成年被後見人であるならば遺言の作成時に医師2人以上の立会いと署名押印を要する(民法第973条)ものの,そうでなければ(認知症の診断を受けているだけだったりすると)医師の立会いは法定の要件とされていないため,公正証書遺言であっても無効とされる場合もありえます。
贈与契約であっても同様です。もしもその辺りの不安があるようであれば,かかりつけの医師に認知症ではない旨の診断書をもらって契約をすべきかもしれません。
長々と失礼しました。
大変勉強になる回答をありがとうございます。記載いただいた内容を参考に、仮登記&死因贈与執行者に弁護士を指定という条件で、負担付死因贈与を話してみようと思います。重ねて厚くお礼申し上げます。
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