そこで今回はこの裁判の詳細と、判決による影響について井上義之弁護士(富士見坂法律事務所代表)に話を聞いてきた。
■裁判の詳細
まずはこの事件と裁判の詳細から伺った。
「この事件は、賃貸物件に関して家賃の保証会社と借主(消費者)との間で定められた契約条項が、消費者の利益を一方的に害する条項の無効を定める消費者契約法10条により無効であるかが争われたものです。最高裁は、借主が賃料等を3か月分以上滞納した場合に、保証会社が履行を催告することなく賃貸借契約を解除できるとする条項(①条項)と、賃料等の2か月分以上滞納、建物を相当期間利用していないと認められるなど4つの要件を満たす場合に、保証会社は、物件の明渡しがあったものとみなすことができるとする条項(②条項)が、無効であると判断しました」(井上義之弁護士)
ポイントは2つだ。「無催告で賃貸契約を解除できるという条項」と「要件を満たした場合は明渡しがあったものみなされるという条項」のそれぞれが無効とされた。
■「無催告で賃貸契約を解除」が無効とされた理由
家賃を3ヶ月以上滞納した場合に、催告せずとも、賃貸契約を解除できるという①の条項が無効になった理由を聞いてみた。
「解除に関する民法上の原則的ルールは、解除前に履行を催告しなければならない、というものです。しかし、賃貸物件の契約書では、家賃滞納などがあった場合に貸主が無催告解除できる旨が規定されていることがあります。最高裁は、昭和43年に、そのような条項について、催告をしなくても不合理とは認められない事情が存する場合に無催告解除を許す趣旨の規定であると限定的に解釈する限度で有効と判断していたのですが、この事件では①条項に昭和43年判例の射程が及ぶかが問題となりました」(井上義之弁護士)
「最高裁は、本件で解除権を有するのは貸主ではなく家賃の保証会社(連帯保証人)であり、保証会社が貸主に保証債務を履行し貸主との関係で借主の賃料等の支払義務が消滅した場合でも無催告で解除できる点で昭和43年判例とは内容が異なること、及び、昭和43年判例のように解釈による限定を加えて有効とした場合、契約書の文言だけではその意味するところが不明確な条項がそのまま使用され消費者の利益に反することを理由に、①条項を無効と判断しました」(井上義之弁護士)
■「無催告で賃貸契約を解除」が無効となったことによる影響
ではこの条項が無効となったことによる影響を聞いてみた。
「確実に契約を解除したい家賃の保証会社としては、なんら限定のない無催告解除条項ではなく、催告をしなくても不合理とは認められない事情を具体的に明確化した無催告解除条項を契約書に盛り込みつつも、可能な限り催告してから解除する、といった対応が必要になると考えられます」(井上義之弁護士)
なるほど。消費者も賃貸契約を交わす際、この点は注目するとよいだろう。
■「要件を満たせば明け渡しがあったとみなされる条項」が無効とされた理由
次に2つ目の家賃を2ヶ月以上滞納し、さらに相当期間建物を利用していないなどの4要件を満たした場合は、物件を明け渡したとみなされるという条項が無効になった理由を聞いてみた。
「最高裁は、②条項が適用されると貸主との関係では建物の使用収益権を失っていないのに保証会社の一存で借主の使用収益権が制限されること、借主が法律上の手続によることなく貸主によって明渡しが実現されたのと同様の状況に置かれること及び4要件の一部が不明確でどのような場合にこの条項が適用されるのかを的確に判断できないことを理由に、②条項を無効と判断しました」(井上義之弁護士)
■「要件を満たせば明け渡しがあったとみなされる条項」が無効となったことによる影響
最後にこの条項が無効となったことによる影響についても聞いてみた。
「最高裁の判断はこの事件限りのものであり、およそすべての明渡しみなし条項を否定するものではありませんが、保証会社が単独で明渡しみなし条項を適用して家賃滞納発生時のコストを節約するのはなかなかハードルが高いといえそうです。形式的には借主に有利な判断ではありますが、事実上、借主が保証会社に支払う保証料が増額されるなどの影響が出てくる可能性もありそうです」(井上義之弁護士)
なんと保証料増額の可能性もあるとのこと。いずれにせよ保証会社の審査は厳しくなりそうだ。
専門家プロフィール:弁護士 井上義之 (第一東京弁護士会) 事務所HP ブログ
依頼者の置かれている状況は様々です。詳しい事情・希望を伺った上で、個別具体的事情に応じたきめ細やかなサービスを提供することをモットーに業務遂行しております。
記事提供:ライター o4o7/株式会社MeLMAX
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