■言葉の意味を考えるとヒレもトンカツ
そもそもトンカツとはどのような料理なのだろうか?
「『カツ』は肉などの食材にパン粉をつけて油で揚げたもので、日本で独自の発展を遂げた料理です。鶏肉を使用したチキンカツや、牛肉を使用した牛カツ、さらには海鮮もあって、『とんかつ新宿さぼてん(以下さぼてん)』では海老カツをパンで挟んだ『エビかつサンド』もご提供しています。そんなカツのなかでも豚肉を使ったトンカツは『カツ』の代表格です」(福田さん)
トンカツといえばロースという印象が強いが、トンカツの「トン」が豚なら、ヒレもトンカツと呼ぶのだろうか。
「確かにトンカツというと、ロースを思い浮かべる人が多いでしょうが、その他にもポピュラーなヒレはもちろん、トンカツ店にはリブロースやトントロなどの部位を揚げたものを提供するところもあります。言葉の意味を考慮すると、厚切りの豚肉を使ったものはすべてトンカツと考えてよいでしょう。肉の種類や部位は店により、『ロースかつ』などの商品名としていますね」(福田さん)
そういえば、もう一つ気になっていたことを思い出した。トンカツは和食なのだろうか、洋食なのだろうか?
「厳密な定義があるわけではなく、難しいところですが、和食と考えられることが多いようです。その背景の一つに、トンカツは日本の食文化である『定食』スタイルをメインに普及してきたという歴史があります。もちろんお酒のおつまみの揚げ物の一つとしてお召し上がりいただくのもアリですが、一般的には、ご飯、味噌汁、付け合わせのキャベツというスタイルで食されるのもトンカツの特徴です」(福田さん)
それにしても、炊き立てのご飯にもよくあうおかずである。
■トンカツの歴史は100年以上
筆者もトンカツは和食と考えているが、そもそもトンカツのルーツはなんだろう?
「ルーツは西洋料理のカツレツで、明治時代の文明開化とともに日本に入ってきた料理の一つと考えられています。その頃の西洋風のカツレツは、仔牛肉をスライスしたものにパン粉をつけて炒め焼きする料理だったようです。つまり揚げ物ではなかったということ。それが、手間と時間を省くために、『いっそのこと油で揚げてしまえ』という発想のもとに生まれたのが日本のカツレツです」(福田さん)
使用する肉が、牛から豚になったのはなぜだろう?
「銀座の老舗レストラン『煉瓦亭』の創業者・木田元次郎さんが、1899年(明治32年)に牛の代わりに豚を使ったポークカツレツを売り出したのが最初のようです。ここで、付け合わせも温野菜から現在の生のキャベツになったとされています」(福田さん)
国内での豚肉を使った揚げ物には100年以上の歴史があるというわけだ。
「豚肉といっても最初は薄い肉を使用していたようです。そして、現在のように厚い豚肉を使った、トンカツの原型となる『日本人の味覚に合うカツレツ』を最初に考案したのは、元宮内省の大膳職でコックを務めていた島田信二郎さんとされています」(福田さん)
ちなみに島田さんが創業した『ぽん多本家』は、今も上野で営業している。
■おいしいトンカツは衣のケンダチで見極める
トンカツの歴史がわかったところで実食編。おいしい食べ方を教えてもらった。
「では、さぼてんがおすすめするトンカツのおいしい食べ方をレクチャーします(笑)。まず、ゴマとすり鉢のご用意を。すり鉢にゴマをいれて香りがたつくらいにすり、次にそのすり鉢にソースをいれます。そこまでが、いわば準備。食べる際には、油の吸収をおさえるためにキャベツを先に食べます。そして、いよいよトンカツですが、トンカツは準備した、すりごまソースにつけて食べます」(福田さん)
ソースがすりたてのゴマと絡むことで、味に深みが出る。ちなみに、トンカツといえば、よくカラシがついてくるが……?
「『トンカツにカラシ』の経緯としては、まず、他の肉料理でおなじみだったマスタードがカツレツにも合わせられ、トンカツが日本の食文化に取り込まれていくなかで、国内で入手しやすいカラシを合わせて食べるようになったという説が一般的です。脂の多い肉のこってりとした味が引き締まりますし、肉の臭みを和らげるので、相性がよいのです」(福田さん)
おいしいトンカツを出してくれるお店の見分け方はあるだろうか?
「お店の雰囲気などは考慮しないで、シンプルにおいしいトンカツの見わけ方をお話しします。そのポイントは『ケンダチ』です。ケンダチとはパン粉が揚げ物の表面でツンツン立っている仕上がりのことで、よいケンダチが立っているトンカツは衣がお肉にしっかりとついている証拠。サクサクとした食感でおいしく食べることができます」(福田さん)
ちなみに筆者は牛肉や鳥肉よりもカツはやはり豚肉派。あのトンカツの脂身は最高の贅沢だろう。特に秋は食欲まかせに、肉の旨みを堪能できるトンカツをガッツリ食べたくなる。よし、今夜はトンカツ定食にしよう。
●専門家プロフィール:株式会社グリーンハウスフーズ
テイクアウト業態を含め、トンカツのトップブランド「とんかつ新宿さぼてん」を国内外に約520店を展開・運営。トンカツを“胡麻をすって食べる”方法は、50年以上前の創業時からのさぼてんの“食べ方提案”。さぼてんの他にも中国料理「謝朋殿」などのダイニング事業や高速道路のサービスエリア内レストランや売店などの運営を行う高速道路SA・PA事業などを手がけている。