
ちなみにストーカー規制法は、ストーカー事件の被害の深刻化と加害の巧妙さに伴い、都度改正されてきた。そこにはITの進化発展も一因とされており、改正内容も概ねそれに関連している。ちなみにストーカー規制法の改正は直前に起こった事件がきっかけとなっている。
・1999年の桶川ストーカー殺人事件→2000年11月にストーカー規制法が成立
・2012年の逗子ストーカー殺人事件→2013年6月にストーカー規制法が1度目の改正
・2016年の小金井ストーカー殺人未遂事件→同年2016年12月に2度目の改正
今回は改正が度重なっている背景やその改正内容について富士見坂法律事務所の井上義之弁護士に話を伺った。
■ITや情報技術の進化発展によってストーカー行為が巧妙化
改めてストーカー規制法の度重なる改正について、どのような背景があるのか伺った。
「ストーカー規制法は2000年に制定されましたが、その後もストーカー事案の認知件数は高水準で推移しました。また、情報通信技術の進化に伴い、規制対象行為を拡大する必要も生じました。当時規制対象とされていなかった行為をした後に被害者を殺害する事件が発生したりもしました。こうした実情に対応するため、ストーカー規制法は改正を重ねてきたと言えます」(井上義之弁護士)
やはりITや情報技術の進化発展によって事件が巧妙化していることは間違いなさそうだ。
■1回目と2回目の改正で何が変わったのか
次に1回目と2回目の改正でそれぞれ何が変わったのか聞いてみた。
「1回目の改正(2013年)では、連続した電子メール送信を規制対象に追加、禁止命令等を発することのできる公安委員会等の拡大などの措置が講じられました」(井上義之弁護士)
改正のきっかけとなった逗子ストーカー殺人事件で加害者は被害者に対して、およそ1ヶ月で1000通以上のメールを送っていた。
「2回目の改正(2016年)では、住居等の付近をみだりにうろつく行為や連続したSNSメッセージ送信を規制対象に追加、禁止命令の運用柔軟化、被害者の避難のための支援、罰則の強化などの措置が講じられました」(井上義之弁護士)
1回目の改正で規制対象に加わった『連続した電子メールの送信』は、単純にメールの送信のみで、ブログやTwitter等のSNSを通した連続メッセージやつきまとい行為は含まれておらず、小金井ストーカー殺人未遂事件ではそれらが悪用された。
■3度目の改正で何が変わったか?
さて今年の5月の3度目の改正では何が変わったのだろうか。
【位置情報の取得】
「無断で、GPS機器等を取り付けたりスマホアプリなどから位置情報を取得する行為等が規制対象になりました」(井上義之弁護士)
【連続した手紙】
「改正前は拒まれたにもかかわらず連続して電話・FAX・メール等をすることが規制されていましたが、改正後は同様の態様で手紙を出す行為も規制対象になりました」(井上義之弁護士)
【被害者がいる場所での見張りや押しかけ】
「改正前は自宅など被害者が『通常いる場所』付近において、見張ったり押しかけたりする行為などが規制されていましたが、改正後は被害者がたまたま立ち寄ったお店など『実際にいる場所』付近における同様の行為も規制対象になりました」(井上義之弁護士)
【加害者の住所不明でも接近禁止命令の公示送達が可能になった】
接近禁止命令の制度は命令を受ける者への送達が必要ですが、加害者の住所等が不明な場合も『公示送達』によって加害者に送達されたものとして扱うことができるようになりました」(井上義之弁護士)
これらは、2020年7月30日に最高裁がGPSの悪用がストーカー規制法の「見張り」には当たらないと判断したことが改正のきっかけとなった。
■技術の進化に伴う法律改正は今後も続く
技術の進化と加害行為の巧妙化の関係性を紹介したが、これらはこのまま続くと考えて良いのだろうか。技術進化による法律改正は歴史的に考えても珍しいことではないのだろうか。最後に井上義之弁護士はこの様に話した。
「法律は社会の実情に応じて変化していくものです。法律が技術の進化に追いついていないことも多いですが、技術の進化に伴う法律の改正自体は決して珍しくありません」(井上義之弁護士)
専門家プロフィール:弁護士 井上義之(第一東京弁護士会) 事務所HP ブログ
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記事提供:ライター o4o7/株式会社MeLMAX
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