■睡眠時間が確保できていれば問題ないのか
まず、深夜働いて昼間6~8時間眠るという場合のリスクを聞いた。
「朝起きて夜眠るというのが、光や体温の関係からみても一番適切なリズムです。長期間不規則な睡眠生活を送っている方は、不眠症の有症割合が高いとされています。虚血性心疾患、高血圧、肥満や糖尿病などの生活習慣病、また、乳がん、大腸がんなどの発症リスクも上昇します」(富下さん)
大病を誘発する可能性がある。それはどういった理由からなのだろう。
「要因として考えられるのは、体内時計と光の関係が崩れることと、体内時計と体温リズムが乱れることです。どうしても昼夜逆転した生活を送らなくてはならない場合、リズムが変動しないようにする必要があります」(富下さん)
それには2つの問題があるというので、詳しく聞いてみた。
「夜になると、眠るために必要なメラトニンというホルモンが分泌されます。しかし、眠る前に強い光を浴びてしまうと、分泌が抑制されます。それにより、十分に成長ホルモンが分泌されない、よく寝た気がしないといった状態になります。また、体温は朝から昼にかけて上昇し、就寝前に下がりはじめ、朝に向かって再びゆっくり上昇していきます。この体温のリズムは日勤であっても夜勤であっても変わりません。そのため、夜勤明けで眠る場合は、体温が高い状態で就寝することになります。体温が高いと寝つきが悪く、深い睡眠を得にくくなります」(富下さん)
太古の時代から太陽の光と共に暮らしてきた人間は、身体そのものが昼間の生活に慣れているのだろう。
■規則正しい睡眠サイクルが重要
とはいえ、仕事のために生活スタイルを変えられない人もいる。この場合はどうしたらよいのだろうか。
「就寝前にできるだけ強い光を浴びないようサングラスをかけたり、遮光カーテンを使用したりするなど、照度を落として生活するとよいでしょう。また、日中の飲酒や喫煙もできるだけ避けましょう。逆に夜起きた後は、しっかり光を浴びて活動モードへ切り替えることが重要です」(富下さん)
なるべく昼間に近い環境を作って生活をするとよいとのこと。
「必要な睡眠時間は人によって異なります。2週間程度自分の生活習慣を記録し、眠気や疲労感を感じることなく過ごせた睡眠時間の平均を割り出すとよいでしょう。体内時計の乱れを最小限にするためにも、平日と休日の睡眠時間の誤差は2時間以内にとどめましょう。望ましいシフトローテーションは、体内のリズムを後ろにずらす、日勤、準夜勤、夜勤の順番です。これですと就寝時刻が徐々に遅くなっていくため、体内時計の観点からも負担が少ないです。逆に、夜勤、準夜勤、日勤の順は負担がかかります」(富下さん)
体内時計をコントロールするためにも、適切な睡眠時間やリズムを知っておくと負担が減りそうだ。
■仮眠は座ったままがポイント
最後に、眠気が襲ってきたときの対処法と、少ない時間でも睡眠の質を上げる方法を教えてもらった。
「眠気を感じたら仮眠をとりましょう。横にならず座った状態で15~20分程度寝ると、起床後すっきりします。起きられるか不安な方は、仮眠前にコーヒーなどカフェインの摂取がおすすめです。慢性的に睡眠が不足すると睡眠負債となり、身体の不調から生活習慣病、認知症、不眠症、がんなど大きな病気に発展する場合もあります」(富下さん)
睡眠負債は、健康へのリスクが甚大なようだ。
「少ない時間で質の良い眠りをとるためには、就寝前に副交感神経を高めてあげることがポイントです。ストレッチやアロマ、ハーブティーなどを活用し、心と身体を癒してあげましょう。また、寝る1時間前ぐらいに40度くらいのお湯に浸かって身体を内側から温めると、自然と身体の末端から放熱がはじまり寝つきやすくなります」(富下さん)
寝る前に入浴するという習慣は、理にかなっていた。
昼夜逆転になっている人もそうでない人も、一度自分の睡眠の質をチェックし可視化してみてはいかがだろうか。睡眠の質を体感しながら生活習慣を改善していけば、睡眠負債を減らすことができるかもしれない。
●専門家プロフィール:富下 瞳
東京西川・日本睡眠科学研究所認定のスリープマスター。社内では主に販売員教育などを担当しているほか、全国で眠りに関するセミナーや寝具選びのコンサルティング、快適な睡眠環境づくりのアドバイスを行う。現在「磯山さやかのGoodナイト!Goodトーク!」(ニッポン放送)に出演中。東京西川が展開する快眠の総合コンサルティングサービス「ねむりの相談所」では、眠りのプロ「スリープマスター」が眠りを計測し、可視化、一人ひとりにあった睡眠環境の改善方法をアドバイスしている。