![「出ていけ!ここは自分の持ち家だ!」夫の暴言に法的効力はあるのか?](http://oshiete.xgoo.jp/_/bucket/oshietegoo/images/watchmain/9/542301348_5a61612789e2b/ORG.jpg)
■夫婦は互いに同居・協力。扶助する義務がある
お話を伺ったのは、弁護士法人アディーレ法律事務所の吉岡一誠弁護士。まずは、「この家の所有者は自分だ。今すぐ出ていけ」。このような言い分はどうなのだろうか?
「夫婦には同居し、互いに協力・扶助すべき義務があることから(民法第752条)、妻は夫に対して同居を求める権利を有しています。したがって、夫には、自宅不動産の名義が自己のものであるとしても、妻を家から出て行かせる権利はなく、仮に暴行脅迫等により妻を追い出した場合は、上記義務の違反となり、離婚原因になる可能性や、慰謝料の支払義務を負う可能性があります」(吉岡弁護士)
夫名義だとしても、妻は当然その家に住む権利があるとのことだった。では、続いて「自分が稼いだお金で生活費を払っている。今後は一切払わない」。これはどうだろうか。
「正当な理由がないにもかかわらず、夫婦の一方が上記同居・協力・扶助義務に違反することは、『悪意の遺棄』として裁判上の離婚原因になります。したがって、夫が正当な理由なく生活費を支払わない場合には、悪意の遺棄に該当するとして妻からの離婚請求が認められる可能性があります。なお、生活費(法律上は「婚姻費用」と言います。)については、家庭裁判所に調停や審判を申し立てる方法により請求することが可能であり、最終的には給与差押などの強制執行手続により回収できる可能性がありますので、弁護士に相談することをお勧めします」(吉岡弁護士)
どちらも、権利がないのに無理やり実行しようとすると、裁判上の離婚原因や慰謝料の支払い義務が生じる可能性があるようだ。
■「別れる前に金払え」は通用する?
最後に、離婚の際の「これまでにかかった生活費を返せ」という言い分について聞いてみた。
「夫婦は、互いに生活保持義務を負っており、相手に自己と同等の生活を保障する義務を負っています。したがって、基本的な生活費について妻が返還義務を負うということはなく、仮に夫に内緒で金銭を使っていたとしても、ちょっとした交際費や娯楽費であれば、生活費の範疇として返還の義務を負うことはありません」(吉岡弁護士)
生活費の返済義務は無いが、離婚の場合、妻が専業主婦であった場合と働いていた場合で財産分与の扱いが異なるので注意しよう。
「妻が専業主婦の場合、夫は妻の内助の功によって収入を得られるものと考えられており、夫が妻に生活費の返還を求めることはできないのはもちろんのこと、離婚の際には、婚姻期間中に形成された夫婦の共有財産(貯金や不動産)の2分の1程度を財産分与として妻から夫に対して請求可能です。なお、妻にも収入がある場合は、婚姻期間中に妻が形成した財産も財産分与の対象となりますので、離婚時には2分の1程度を夫に分与しなければいけません」(吉岡弁護士)
法律的にはなんの根拠もないことが分かったこれらの言い分。妻は、腹が立っても聞き流すことをおすすめする。逆に夫は、ちょっとした口喧嘩のつもりが離婚の原因を自ら作ってしまうことにもなりかねないので、ご注意を!
●専門家プロフィール:吉岡 一誠
弁護士(東京弁護士会所属)。関西学院大学法学部卒業、甲南大学法科大学院修了。弁護士法人アディーレ法律事務所所属。友人がとても困っているのに、相談に乗ることしかできない自分自身に憤りを覚え、弁護士になることを決意。現在は悩んでいる方のために、慰謝料問題や借金問題などを解決すべく、日々奔走している。
(酒井理恵)