■ひげはそんなに簡単には抜けない?
動物の体毛は夏毛や冬毛があるように、ひげも抜け替わる時期があるのだろうか。
「猫のひげは体毛の3倍深く皮下に埋まっているので簡単には抜けない構造になっています。ブラッシング中に抜けてしまったのなら、おそらく抜ける時期になっていたひげが自然に抜け落ちたのではないでしょうか。体毛の換毛期と同じではありませんが、古くなると定期的に生え変わります」(内藤さん)
ひげは普通の体毛とは違う構造とのこと。どう違うのだろうか。
「猫のひげの根もと近くには神経が集中しており、大切な感覚器官のひとつになっています。ひげは『感覚毛』という別名を持ち、周りの物の存在や自分からの距離、温度変化など様々なことを感じ取ることができます」(内藤さん)
そんな感覚器官をどのようにケアすればよいのだろう。
「猫のひげは鼻の下だけではありません。目の上や頬、前足首の裏にも生えています。切ったり引っぱったりせずに触らずそっとしておきましょう。猫は自分で顔を洗ってお手入れをしますので、飼い主がひげのケアをしてあげる必要はありません」(内藤さん)
確かに猫の顔をよく観察すると、ひげは顔中に生えている。全身に50~60本あると言われているようだが、足首の裏にも生えていたとは驚きだ。
■目の代わりにもなるひげ、お手入れ時もひげは残して
猫は自分で自分の体を綺麗にしているので、さほどトリミングが必要ではないというが。長毛種の猫だと、部分的にトリミングをしているという人もいるだろう。
「足の後ろのひげも、大切な感覚器官なので切らずに残してあげてください」(内藤さん)
内藤さんは、ひげの重要性について更に教えてくれた。
「生まれたばかりの赤ちゃん猫は目が見えませんが、ひげでお母さんのお乳を探します。細い隙間も猫はするっと入り込みますが、それは、ひげの長さで自分が入れるかどうかを測っているからです。暗闇では目の代わりになるほど、ひげの役割は大きいのです」(内藤さん)
毛に混ざって生えていると、うっかり切ってしまいそうだが気をつけたい。
■抜けたひげはお守りになる?
猫にとってひげが大切な器官と分かった上で、複数本床などに抜け落ちていたのを見つけた場合はどうすればよいだろう。
「落ちているひげは自然に抜けたものですので心配しなくても大丈夫です。ただ病気が原因で抜けることもあります。短期間に大量のひげが抜け落ちた場合は、病院での受診をおすすめします」(内藤さん)
ひげは感覚器官であると同時に健康のバロメーターでもあるのだ。
ところで、猫のひげを大切に保管している人がいるようだが……。
「猫のひげは、お守りやラッキーチャームとしても知られています。落ちているひげを見つけると、ついつい大切に保管してしまう人もいるようです」(内藤さん)
確かに「猫のひげ」とネット検索すると、「お守り」や「幸運」などのキーワードが出てくる。保管用ケースや、ひげ用のスタンドなども販売されており、愛猫家には知られているグッズのようだ。今回は、猫のひげの大切さがよく分かった。次回猫と触れ合うときは、全身に生えているひげに気を付けたい。
●専門家プロフィール:内藤由佳子
神奈川県川崎市にてキャットシッターないとうを経営。シドニーの猫保護施設でのボランティアを通し、猫と人間との共生のあり方を学ぶ。自然と動物をこよなく愛し、愛情をたっぷり込めて丁寧に猫のお世話をしている。