■排尿回数より、一日の排尿量が大切!
「まず、生命維持や健康の観点では、排尿の回数より、量が重要なんだということを覚えておいてください」
と語るのは、信州大学医学部泌尿器科学教室の皆川倫範先生。
「特に夜間の排尿回数が多い場合、睡眠不足などにより社会生活に大きな影響を及ぼし、生活の質は大きく損なわれます。その観点では、排尿の回数は重要な問題です。また、回数の低下が量の低下を示す場合があるので、回数が全く問題ではないというわけではありません。しかし、回数が多くても少なくても、即ち病気であるとは言い難いのです」(皆川先生)
脱水や腎機能障害など健康上の問題がないかの判断基準として、尿量は重要なのだとか。では、ここで本題だが、トイレに行く回数が減ってしまうのはなぜなのだろうか?
「健康な人の場合、次の2つが考えられます。実際に尿の産生が低下しているか、尿意の閾値が上がってしまったか。前者の場合、脱水を第一に考えましょう。まずは水分補給です。それでも尿が出なくて、ましてやむくみがでるようなことがあれば、脱水以外の要素を考えて医療機関に受診をする必要があります。後者の、閾値が下がっている、つまり、なにかに夢中になったり逃避したりして『オシッコどころじゃない』場合は問題ありません」(皆川先生)
子どもが夢中で遊んでいて、失禁にいたる場合はこれにあたるのだそうだ。
「そもそも適切なトイレの回数は、夜間と昼間と分けて考える必要があります。昼間に関しては、適切な回数は無いと言っても過言ではありません。上記のごとく、閾値が変わりうるからです。尿意に従って、好きなだけトイレに行ってください。夜の頻尿は睡眠の質という点から0回であるのに越したことはありませんが、加齢に伴い回数は増えます」(皆川先生)
繰り返しになるが、回数にはそこまでこだわらなくてよいそうだ。
■オシッコが溜まったままだと体に悪くないの?
しかし、長時間トイレに行かず、尿が膀胱に溜まりっぱなしになっているところを想像すると、何となく健康に悪い気もするが……。
「尿中の老廃物は、膀胱内で再吸収されることはありません。また、膀胱内の尿は、体内の液体のなかでは相当にキレイな部類です。糞便中には多量の細菌がいますし、血液にはウイルスが潜んでいるかもしれません。でも、普通の尿が半日程度溜まりっぱなしになったところで、膀胱内に老廃物が沈殿したり、有害な微生物が増殖したりするような健康被害に繋がることはまずありません」(皆川先生)
通常の排尿機能を備えていれば、すぐさま健康被害が出ることはないようだ。
「かといって、まったく排尿しないことを許容してよいかは別問題、程度問題です。一日1.5リットル程度の尿をつくれるように、こまめに水分摂取し、尿の産生を持続することが健康につながります」(皆川先生)
1.5リットルの水を一気に飲めばいいという意味ではないのでご注意あれ。
■トイレに行かない時間が長い=脱水・熱中症の可能性アリ
では、トイレの回数が極端に少ない人が病気であるという可能性はないのだろうか?
「特に我慢しているわけではない場合、懸念されるのは脱水と尿路結石です。脱水とは、熱中症と同義です。『尿に行かない時間が長い』のは、脱水のサインかもしれません。水分補給が必要です」(皆川先生)
先ほど、「膀胱内に老廃物が溜まっていても健康被害はない」とのことだったか、脱水によって腎臓での尿産生そのものができなくなった場合、体内の老廃物は血液中に溜まってしまう。放っておくと深刻な状態になるので注意しよう。
「尿路結石は、すぐに命の危険があるということはありませんし、脱水になったらすぐ発症するものでもありません。しかし、脱水になる時間をくりかえしたりする生活は、その発症リスクをあげます。ただ、食生活、メタボ、体質など、さまざまな影響を受けて尿路結石になりますので、脱水はあくまで原因のひとつですが」(皆川先生)
特に夏場、トイレの回数が極端に少ないと感じている人は要注意。脱水症状のサインを見逃さないように気をつけよう。
(酒井理恵)