■優れた才能を表す二字の言葉は10語
そもそも才がつく漢字二文字の言葉はどれくらいあるのだろうか?
「私自身も執筆者の一人である『明鏡国語辞典 第二版』(大修館書店、2010年)には、才がつく漢字2字の言葉は全部で48語掲載されています。そのなかで、優れた才能、またはその持ち主を指す言葉は10語。50音順に紹介すると、異才(偉才とも書く)、英才(穎才・鋭才とも書く)、鬼才、奇才、賢才、才英(才頴とも書く)、才知、秀才、俊才、天才です」(山岡さん)
普段耳にしない言葉も多い。
■~才を順位付け
これらの言葉を順位付けしてもらった。
「厳密に決められているわけではありませんが、私なりに考えてみましょう。第1位は『鬼才』です。これは、『人並みはずれてすぐれている才能。また、その持ち主』という意味です。『鬼才』の『鬼』は、もともと神を表し、人智の及ばないほど優れた才能を意味するので、他を超越していると考え第1位としました」(山岡さん)
では第2位は?
「『奇才』でしょうか。これは『まれにみるほどの、すぐれた才能。また、その持ち主』という意味です。ずば抜けて非凡であることを意味するので、『鬼才』以外では最上位に当たる第2位としました。続けて順位を発表すると、第3位は『天才』で、意味は『生まれつき備わっている、きわめてすぐれた才能。また、その才能の持ち主』。非凡なものを持った人への敬意や羨望(せんぼう)が込められております。第4位は『偉才(異才)』で、意味は『きわだってすぐれた才能(を持つ人)』。第5位は『秀才』で、意味は『学問・才能が人並み以上にすぐれた人』です」(山岡さん)
それ以下は?
「すぐれた才能(をもつ人)という意味の『英才(穎才、鋭才)』、それと意味がとても似ていますが、辞書には『すぐれた才能(また、それを持つ人)』と表記されている『賢才』、才知がすぐれていること(また、その人)という意味の『才英(才頴)』『俊才(駿才)』は同列の第6位です」(山岡さん)
秀才以下は、嫌味にならない程度に人を褒めるに便利な熟語かもしれない。
■独特のニュアンスがある『天才』
この中でもよく耳にするのが第3位の『天才』だ。
「このなかではもっともポピュラーでしょうし、私自身の経験を踏まえてもそう思います。たとえば赤塚不二夫さんの漫画『天才バカボン』などがありますよね。『天才バカボン』は私も子どもの頃にゲラゲラ笑いながら読んでいました。これが、『秀才バカボン』だと漫画のユーモラスな感じが出ませんよね」(山岡さん)
確かに『秀才』もよく使う言葉だが、『天才』とはニュアンスが異なる。
「どうも『天才』という言葉には優れた人を仰ぎ見る尊敬の念と同時に、それとは表裏一体の羨望からくるのか、皮肉や嘲笑のニュアンスも含んでいるような二面性を感じます。有名作家の作品を見ても、『天才的犯罪者』(三島由紀夫『金閣寺』)、『すばらしい家畜、天才的な動物』(大江健三郎『飼育』)、『空想を失ってしまった詩人、早発性痴呆に陥った天才』(梶井基次郎『愛撫』)などの皮肉的な用法が見られます。日常会話でも『あいつの言い訳上手は天才的だな』のような文脈で、皮肉として使われますよね」(山岡さん)
このようにどこかユーモラスに人をからかうニュアンスは『天才』固有のもの。他の類義語にはあまり見られない特徴だと山岡さんは教えてくれた。
それにしても才のつく二字熟語だけでこれだけ数がある日本語は奥深い。筆者も『鬼才』までは高望みしないが、『才英』などと評されるよう高みを目指したい。
「教えて!goo」では、「天才として誰が挙げられるでしょうか?」ということで皆さんの意見を紹介中。
●専門家プロフィール:山岡政紀
1962年京都生れ。創価大学文学部教授、日本語学・語用論・人間学専攻、博士(言語学)。ブログも好評を博している。