
だが本当に「バーテン」という呼び方は、専門家から見ても失礼な差別用語であり、ともすると「放送禁止用語」にも該当するだろうか。確認すべく、元アナウンサーであり、マナー&話し方未来研究所所長である飯島永津子さんに話を聞いてみた。
■「バーテン」と呼ばれるようになった時期と経緯
そもそも「バーテンダー」というワードは、いつから使われているのだろう。
「1830年代頃にアメリカで生まれた職業名で、“BAR(酒場)”と“tender(提供する/世話する人)”を掛けあわせた複合語です。一説によると、日本で『バーテンダー』という職業が入ってきたのは太平洋戦争後1945年以降のこと。アメリカ文化が勢いよく入ってきたその頃から、日本でも『バーテンダー』という言葉が定着したようですね」(飯島さん)
では、なぜ「バーテン」と呼ばれるようになったのだろうか。
「『バーテン』は、アメリカの『バーテンダー』を語源としつつも意味は異なり、『バー』と『フーテン』を組み合わせた造語です。『フーテン』とは、『フーテンの寅さん』の通り定職を持たずフラフラしている人という意味ですが、日本にバーテンダーという職業が入ってきた当時は、多くの知識や技術を問われない職業と認識されていたため『バーテン』と呼ばれるようになり、一種の差別用語に該当するのではないかといわれてきました。現在はバーテンダーの職業的権利を保つため、『N.B.A.検定試験制度』に基づいた資格試験(バーテンダー呼称技能認定試験、インターナショナル・バーテンダー呼称技能認定試験)があり、取得者は確かな知識と技術を持つことが証明されるようになりました」(飯島さん)
「N.B.A.検定試験制度」とは、バーテンダーの資質の向上と調酒に関する知識の普及を目的とする日本バーテンダー協会主催の試験のこと。取得すると社会的評価も高まるようだ。
■「バーテン」は差別用語であり放送禁止用語?
バーテンダーに向かって、直接「バーテン」と呼びかけることは失礼ということが分かったが、表立って使わなければ支障はないだろうか。
「賛否両論あるでしょう。例えば、いっときキャビンアテンダントは『スッチー』、私のようなアナウンサーは『局アナ』と呼ばれてきましたが、内々で使うことに留めておいたほうが無難かもしれませんね」(飯島さん)
やはり不快と感じる人がいるということだろう。放送禁止用語には該当するだろうか。
「そもそも放送禁止用語の定義はあってないようなものです。しかし『バーテン』は略語であり差別用語に聞こえることから、放送禁止用語に該当するといえるでしょう」(飯島さん)
他にも、人によっては不快に感じる職業の呼び方がありそうなので気を付けたい。
「私がアナウンサーだった頃、放送禁止用語は『放送に用いるのに不適切な言葉」という取り扱いで、毎月、不適切な言葉を冊子にまとめ周知徹底されたものです。これらは日本民間放送連盟やNHK放送基準の解釈に付随するものながら、責任は各放送局の自主基準によって運用されてきました。ですが、2005年以降は個人情報の保護に関する法律により、統一して規制対象となった放送用語もあるようです」(飯島さん)
現在も個人情報以外の放送用語に法の規制がないのは驚きだが、「バーテン」は、先に挙げたコネタの通り、失礼であり放送禁止用語に該当するというのが飯島さんのご見解。安易に使用しないに越したことはないだろう。
●専門家プロフィール:飯島 永津子
テレビ朝日系列民放局、NHKアナウンサーを経てフリーに転身。各界の著名人への取材を通じ多くの学びを得る。 現在は、愛媛大学医学部、他大学講師、NHK・三越・新聞社などのカルチャー講師、BMIビジネスマナー認定講師、マナー&話し方未来研究所所長として、全国の大学や企業、病院などで作法や話し方などの講演を行う。