■見た目の財務状況だけで判断できない
まず、ブラック企業かどうか第三者が見極める方法について聞いた。
「中小企業の財務状況を確認するのは難しいです。うまくいっているように見えても、反社会的勢力の力を得て儲けている会社もあります。従って、その会社が入っているビルに実際に赴き、他にどんな会社が入居しているかを確認し、ネット検索してみるといった泥臭い調査も必要でしょう。よくない噂が一つでもヒットすれば、そのビルは反社会的勢力関係者へのチェック機構が弱いということになります。ですから、面接しようとする会社も弱い審査しか受けておらず、黄色信号と考えられるでしょう」(住川先生)
次に、取引先の表示についても注意点があるという。
「主要取引先に信用のある企業が存在するかどうかの確認をするのもよいでしょう。ただし、創業して間もないのに、やたらと有名な会社を列挙しているような場合は、虚偽や誇大表示であることも多いので注意が必要です」(住川先生)
外部への見え方をカモフラージュするのもブラック企業の特徴なのだ。
■若手が活躍というキャッチフレーズには注意
他にも、ブラック企業かどうかの見極め方があるというので教えてもらった。
「まず、『若手に責任ある仕事を任せる』、『若手が活躍できる会社』といったキャッチコピーを見せつける会社は要注意です。一人前になるには相応の時間がかかるはずなのに、いきなり責任ある仕事につけるというのは、『サポートしないまま難しい仕事を押し付ける』という意味にもとれます。ここでいう難しい仕事というのは経営陣がやりたくないような仕事のことで、単なるクレーム対応など生産性の低い仕事も多いのです。若い人の責任感を利用して、若い力を搾取する可能性があります」(住川先生)
面接でも判断材料が出てくるという。どのような質問をすればよいかを聞いてみた。
「30代以降のキャリアビジョンについて質問するとよいでしょう。『若い力』といった文言を多用する会社は、若手だけの会社か、若手でない人が辞めてしまう環境である可能性も高いからです。結婚や出産など仕事以外の重要な関心事が増えてくる時期にキャリアアップできない環境ということは、辞める前提で若手を酷使している場合もあります。働く人が継続しやすいような体制を整備することにコストをかけず、安い労働力を搾取しようという意図が見えるわけです」(住川先生)
キャリアアップに大切な時期を、こんな会社で過ごすのは実にもったいない。
■抽象的な理念を深掘りする
最後にもう一つ、ブラック企業にありがちな傾向を紹介してもらった。
「会社の将来性を見せつけるために『5年で年商●●億円』、『上場を目指す』などと求人で謳うケースは多くありますが、口ではいくらでも言えます。もちろん、ビジョンは大切です。しかし、そこに至る計画がなければ、ビジョンだけ押し付けられて『何をすればよいかわからないが、怒鳴り散らされる』という事態にもなりかねません」(住川先生)
こうした理不尽なことがまかり通るのが、いわばブラック企業なのだ。
「面接では、ビジョンに至るまでの具体的な計画などを質問するとよいでしょう。『●年間で●●到達』を謳っていれば、1年目、2年目にどうなっているのか細かく聞くことです。計画性のある会社であればきちんと答えてくれますが、逆に計画性がなく耳触りのよいビジョンや志だけを語る会社であればはぐらかされます」(住川先生)
適正な経営ができていない会社は、必ずどこかにほころびがあることが分かった。ブラック企業に入社して大切な時間を無駄にしないためにも、正しい知識をもって判断していきたい。
●専門家プロフィール:住川 佳祐(すみかわ けいすけ)
QUEST(クエスト)法律事務所 代表弁護士。“あらゆる労働問題に関する「ブラック企業の手口」”と“ブラック企業に騙されない方法”について、全国の労働者に向けて発信するメディア「ハタラクエスト」の全ての記事を執筆・監修して運営を行っている。特に、最近ではブラック企業に対する残業代請求の相談が後を絶たない。「残業代を請求するための完全マニュアル」を公開。