■低温調理のメリットは何?それはどのようなメカニズムなのか
低温調理のメリットはやはり素材の味をアップしてくれることだろう。それはどのような現象によるものなのだろう。
「低温調理のメリットは、加熱によって起こる素材の収縮を抑制して脱水や凝固を防ぐことです。それにより、仕上がりをしっとり柔らかくすることができます」(清水さん)
「収縮」「脱水」「凝固」を防ぐことで、食感や味が劇的にアップする。しかし、肉などは火をしっかり通さないと心配だ。
「食肉のたんぱく質は約55~65度で硬くなりはじめます。たとえば豚肉ですと細菌による食中毒を防ぐために中心温度63度で30分の加熱、もしくはそれと同等の条件(60度だと1時間の加熱等)が必要です」(清水さん)
長時間加熱することによって細菌は死滅する。低温と聞いて体温程度の温度を想像した人もいたかもしれないが、60度以上の温度にすることが必要ということがわかった。
「フライパンやオーブンなど通常の調理法だと食材の内側の温度を上げるために外側をさらに高温にしないといけません。塊肉のように厚みがあると内側に熱が入るまでに外側は熱で硬くなり、うまみや栄養を含んだ汁が外に出てしまいます」(清水さん)
フライパンやオーブンで低温調理と同様の状態をつくるのは難しいようだ。
「低温真空調理では、外側も中心温度と同じように加熱ができます。結果素材全体を、最適な状態にすることができます」(清水さん)
そして低温調理を身近な調理法にする上で、低温調理器がつくられた。この手法が一般家庭でも可能になったことで、近年注目を浴びるようになったのだ。
■低温調理のデメリットはあるの?
では、低温調理にデメリットはあるのだろうか。
「デメリットとしては、やはり低温で調理するので、細菌や微生物の死滅条件に達する最低限の加熱温度、時間をしっかり守らないと、食中毒のリスクが高くなることでしょう。また、加熱時間が長いので、時間がかかるという点です」(清水さん)
時間、加熱温度は絶対に守るべき条件だ。低温調理器があるから安心というわけではなく、正しく設定していなければ当然衛生面でのリスクが高まることになる。
「調理には、密封できるポリ袋や保温鍋が必要になります。『低温調理器』を使用しなくても保温性の高い鍋でも可能ですが、不安定な要素が多く安全性に欠けます。低温調理の際はできるだけ 『低温調理器』の使用をおすすめします」(清水さん)
安全面を考えると低温調理器を購入したほうがよさそうだ。その費用もデメリットといえるかもしれない。
「低温調理は真空状態での調理になるので、うまみも逃しませんが、臭みも逃しません。ですので、鮮度のよい素材を使用すること、しっかりとした下処理が必要になります」(清水さん)
なるほど。食材の鮮度の良し悪しが仕上がりに大きく影響するのだ。
素材がよければ家庭でお店顔負けの味をつくることができる一方、低温調理器を正しく使わないと衛生面のリスクが増すため、人により向き不向きがあるかもしれない。今回紹介したメリットとデメリットをしっかり理解した上で、低温調理を楽しんでもらえれば幸いだ。
●専門家プロフィール:清水季代
管理栄養士、フードコーディネーター。親子食育を目的とした「せたがやはらぺこだん」代表。保育園栄養士勤務経験を活かした、子どもも好きな味付けで体に優しいお料理を得意とする。