■夫婦喧嘩が子どもに与える影響とは
横山さんは、「夫婦喧嘩が子どもに与える負の影響は大きく、子どもの頃に受けた影響が大人になっても残ることがある」と前置きした上で答えてくれた。
「夫婦喧嘩で一番心配なのは、喧嘩の理由がわからない子どもが『両親が口をきかないのは、自分のせいかもしれない』と考えてしまうことです」(横山さん)
そこで、子どもは子どもなりに「何とかしないと」と考えるようだ。
「子どもは、親からの愛情や期待、保護、支えを自分の実力と認知し、『自分は何でもできる』という幼児特有の万能感(スーパーヒーローやお姫様になれるなど)を持っています。そのことから、『僕(私)が何とかしないと!』と思うのです。たとえば、『どうしてお話しないの?』と顔を覗き込んで心配したり、面白いことをして笑顔を誘ったり、おもちゃや絵本などを持ってきて仲を取り持とうとする子さえいます」(横山さん)
そのような状況にバツの悪さを感じた親は、つい心にもない言葉を発してしまうこともあるだろう。
「子どもの気持ちに寄り添わず、『あなたには関係ないから、あっちに行ってなさい!』などと突き放してしまったら、子どもはさらに『自分のせいで、ますます悪い方向に向いてしまった』、『親が口もきかずにいるのは、自分のせいかもしれない』、『何もできない自分なんて要らないかもしれない』などと、自分の存在すらも否定してしまうケースも考えられます」(横山さん)
このような状況から受けた心の傷が、大人になっても残ることがあるという。
「一時的なことならまだしも、このような状態が繰り返されたり長く続いたりする場合は、子どもの成長過程において自己肯定感の欠如につながったり、将来や結婚に希望を見い出せないなど、心理的外傷(トラウマ)を引き起こすことがあります」(横山さん)
ささいな夫婦喧嘩も、子どもの将来に悪影響を及ぼす危険性があるのだ。
■謝るきっかけの作り方
謝るきっかけの作り方を、具体的に提案してもらった。
「『おはよう』や『行ってらっしゃい』など、日常的なあいさつのあとすぐ、『昨日はごめんね』と加えるのはいかがでしょうか。心配をかけてしまった子どもも交えて会話をしたり、近所にお出かけするのもよいですね」(横山さん)
仲直りのため特別なことをするのは、逆効果だそうだ。
「豪華なレストランなどへ行き、仲直りしようとする人がいますが、かえって喧嘩の思い出を誇張してしまいます。次に同じような状況になった際、『あのときお金をかけて仲直りしたのに……』となりかねません」(横山さん)
楽しかったときやうれしかった瞬間へ「タイムトリップ」するのもよいそうだ。
「喧嘩になると相手の悪いところばかりが見え、よい面を思い出せなくなるものです。そんなときは、結婚前に見た思い出の映画を改めて見たり、子どもが生まれた頃の写真を見たりして、自分自身の心をタイムトリップさせてみませんか」(横山さん)
「こんな頃もあったな……」と、自然に穏やかな気持ちになれそうだ。
■子どもへのフォローの仕方
夫婦が仲直りをしたら、子どもへのフォローも忘れてはいけない。
「まずは、『あなたのせいで喧嘩したのではない』と伝えて欲しいです。お子さんが小学生くらいなら、『なぜ喧嘩になったか』、『どのように仲直り(解決)したか』を伝えてあげてもよいでしょう。最後に『心配かけてごめんね』の一言は、必ず添えてあげて下さいね」(横山さん)
フォローのあとは、普段通りに過ごすのが一番だそうだ。
「家族みんなが目を見て笑顔で会話をし、食事を楽しみ、散歩に出かけたり、お風呂に入ったり……という何気ない日常を過ごすことが、お子さんの心の安定につながります」(横山さん)
子どもにとってみれば、普段の何気ない生活が、安心感を得られる場なのだ。そこで大人二人が喧嘩をするのだから、不安になるのも無理はないのである。夫婦喧嘩は、家族みんなのためにも、できる限り早く収束させたい。
●専門家プロフィール:横山 人美
Keep Smiling代表。パーソナリティーコンサルタント、講演・セミナー講師。各種メディア執筆やテレビ出演など多数。前向きな発達障害とのかかわり方を始め、子育てや人間関係の悩みが楽になる心理学を伝えている。