■男性は本当に胃袋をつかまれるのか
おいしい料理を作って「相手の胃袋をつかめ」という言葉は、日本だけでなくイギリスなどでも言い伝えられているとか。その信憑性はどうなのだろう。
「俗に言う『胃袋をつかむこと』=『妻がおいしい料理を作れば、夫は家庭を大事にする』と思われがちですが、それほど単純な話ではないのかもしれません。『食』によって人間の身体も活動力も成り立っています。もし夫が脂っこくて味の濃いものが好きだからといって、毎日そのような料理を出していたらどうでしょうか。『おいしい』と食べてくれたとしても、肥満などの不調を引き起こしてしまいそうです」(青柳さん)
闇雲に夫の好みに合わせて食事を作っても、それは相手のためにならないのだ。
「大切なのは思いやりです。料理を工夫するには『相手を知る』ことが不可欠であり、相手を知るためには『相手をよく見る』ことが不可欠です。この場合の『見る』とは、観察するということではなく、『相手にしっかりと意識を向ける』ということです。毎日の料理を、『義務感』や『承認欲求』から作っている奥さんよりも、相手に気持ちを向けて作っている奥さんに、男性は胃袋をつかまれるのではないでしょうか」(青柳さん)
下心や惰性からではなく、相手の体調や気持ちに寄り添ってこそ、胃袋をつかむ料理を作ることができるのだろう。
■男性が家に帰りたくなるような雰囲気のよい食卓
胃袋をつかめたところで、食卓の雰囲気が悪かったら台無しだ。男性が家に帰りたくなるような雰囲気のよい食卓についても教えてもらった。
「最近では、AIに食材をインプットすれば、ビッグデータから人間の好きな味を分析し、何となく“それらしい料理”を提案することができるようです。しかし、あるテレビ番組で料理人の方が、『人間の味覚というのは、数値だけでは決まらない』というコメントをされていて、とても印象に残りました。心理学的にも、人間は“よい雰囲気”と“快適な環境”によって気分がよくなると、『好意の強化』という現象が起き、目の前の対象への好意が高まるものなのです」(青柳さん)
夫に意識を向けていれば、料理だけでなく、かける言葉なども自然と変わるもの。どのように食事をするかは、味覚に影響するのかもしれない。
「仕事を終えたあと、何らかの理由により自宅に帰りたくないため、時間をつぶしてから帰宅する男性諸氏は『フラリーマン』と呼ばれますが、自宅に自分へ意識を向けてくれている雰囲気と環境が整っていれば、早く帰ってリラックスしたいと思うかもしれませんね」(青柳さん)
仕事で疲れて帰宅する夫がホッとできる居心地のよい空間作りこそが、総合的に「胃袋をつかむ」ことにつながるのだろう。
●専門家プロフィール:青柳 雅也
「カウンセリングルーム アンフィニ」代表。個人カウンセリングや企業のメンタルヘルスケア、心理学セミナー、企業研修、教育機関で心理学の非常勤講師など活動は多岐に渡る。保有資格は産業カウンセラー(社団法人 日本産業カウンセラー協会認定)