■現場の環境は?ロボットは登場するの?
介護職は過酷というイメージが強いが、実際のところはどうなのだろう。
「人手不足は現実問題として存在します。しかし、介護業界の離職率は16.2%(2017年度)で、産業全体が14.9%(2017年度)ですから、特別に多い訳でもありません。ただ、施設によっては経営効率重視のために職員不足が起きているといった、未熟な業界ともいえます」(占部さん)
離職率自体はそう高くない。では、外国人労働者はどのくらい必要とされているだろうか。
「現状では9割の事業所が採用に至っていません。採用を考えている事業所は業界の半数を超えていますので、近い将来、外国人労働者が増えてくるのは間違いないでしょう」(占部さん)
ロボットやAIについては、今のところ高額な投資が必要な割に効果が低く、業界の9割を占める中小の事業所にとって遠い存在だという。難しい現状の中で、経営かサービスの質か、経営者の考え方が両極端な業界でもあるようだ。
■どのくらいのお金が必要になるの?
次に気になるのはお金の面だ。入所後に施設の利用がどのくらいの期間続くのか、予測することはなかなか難しい。
「デイサービスなどの通所施設や訪問サービスであれば、要介護認定さえ受ければ、自己負担は1~3割です。介護保険の利用で1割負担の場合、月に数千円~3万5千円程度です。しかし施設入所となれば、概ね7万5千円~12万円、グループホームでは13万円近くが必要になります。したがって、両親の年金額で足りない場合は残りを家族が負担するか、それが難しい場合は家族介護の努力しかありません」(占部さん)
公的機関や制度を利用することもできるという。
「早めに地域の『地域包括支援センター』、『社会福祉協議会』などの自治体主体の機関に相談することをお勧めします。住まい、医療、介護、予防、生活支援を一体的に考え、いろいろな相談に乗る窓口です」(占部さん)
不動産がある場合にはそれを担保に融資を受けられる「不動産担保型生活資金」や、医療費と介護費の一部が還付される「高額介護合算療養費」といった制度もあるとのこと。
また、生活保護を利用すれば介護料や医療費は無料になるが、施設に入所する際には少し難があるそうだ。この可能性がある場合は、あらかじめ福祉事業所などに確認をしておきたい。
■「意思の備え」が重要
自分もいつか利用する可能性があるこのような施設や制度。今できること、しておくとよいことはないか聞いておいた。
「私達にとってとても大切なことの一つに『人生の最終段階をその人らしく生きてもらいたい』という考え方があります。しかし、終末期の対応が近づいたとき、ご本人と意思疎通ができないと、家族がとても悩み、不安になります。そのために、『エンディングノート』を書いておくことを勧めています。家の処分、延命治療、最後をどこで過ごしたいか、などを元気なうちに書いておくと、お世話する側が、ご本人の望む『自分らしさ』に沿った医療や介護を提供しやすくなります。いずれ来る死と向き合い、人生の終盤について考えておくことは、決してマイナスにはなりません」(占部さん)
誰しも「老い」は避けられない。それは本人だけの問題ではないのだ。一度周囲や自分の先々について具体的に考え、どこかに記しておくのもよいかもしれない。
占部さんは、介護とは「死ぬまでの援助」ではなく「最後まで生きる援助」だという。そう考えると、今から準備しておくべきことは少なくなさそうだ。
●専門家プロフィール:占部 晴三(うらべせいぞう)
一般社団法人「みのり会」施設長、理事。高校教師を経て教育関連企業に転職、その後、親の介護をきっかけに介護業界に転身。現在、高齢者住宅、デイサービスセンター、訪問看護など7つの事業部を運営するほか、介護職員初任者向けの研修も行う。