老夫婦がやっている小さな特許事務所に勤めている翻訳者です。
うちの事務所は弁理士が一人しかいない(=所長)のですが、その所長が2ヶ月ほど前に入院してしまいました。高齢であることと病状を考えると、今後も退院するのは難しいと思われます。
今のところ、所長は意識ははっきりしていますが、集中力が落ちているため自分で直接業務を行うことはできず、病院からの電話の指示に従って、私と事務員が見よう見まねで所長の業務を代行している状態です。
こういう状況でいろいろ不安なので、次の2点について教えていただければと思います。
1. こういう状態で業務を続けることに法的な問題はないのでしょうか?
所長も奥さんも事務所を閉鎖することは全く考えていないようで、「弁理士の仕事は死ぬまでできる」と言っていますが、本当にそういうものなのでしょうか。弁理士の資格も知識もない私のような人間が、電話による簡単な指示だけで弁理士業務を代行することに法的な問題が生じないか、教えてください。
2. 事務所を閉鎖するときには何をどうすればよいのか?
所長に万一のことがあった場合、後継者もいないので事務所を閉鎖せざるを得なくなると思うのですが、その際、うちの事務所で取り扱ってきた案件はどのように処理すべきなのでしょうか。事務所閉鎖に伴う事務処理について、教えてください。
何か問題が起きないか毎日とても不安なので、ご回答またはアドバイスをよろしくお願いいたします。
No.4ベストアンサー
- 回答日時:
No.3の補足にて、「「日本の特許庁における手続きを代理」することになってしまうのでしょうか」という質問に対して答えさせて頂きます。
特許庁に提出する書類、例えば、国内書面、出願審査請求書、意見書、手続補正書、審判請求書等の書面の代理人の欄に、所長の名前が記載されていれば、所長が代理したことになると思います。翻訳文や、出願審査請求書を作成しただけでは、手続きを代理しているとまでは言えないと思います。弁理士法では名義貸しを禁止していないこともあるので、所長が存命の限り、弁理士法上の問題はまずないでしょう。
No.3でも書きましたが、現在の状態のままで、所長が亡くなり、そのことを特許庁が知ると、特許庁からの拒絶理由通知、拒絶査定謄本等の書類は、直接、出願人宛てに発送されることになります。そして、外国の出願人には、書類を航空扱とした書留郵便に付して発送し、発送の時に送達があったものとみなされます(特許法192条2項、3項)。応答期間の計算で不利になります。この規定は、拒絶査定の謄本のように「送達」する場合に適用されるものであり、拒絶理由通知のように「通知」の場合には当然には適用されません。何れにしろ、外国のお客さんが日本語の書類を受け取っても、大変、困ると思います。
復代理人の選任に、本人からの特別の授権が必要になるのは、日本国内のお客さんの場合です。外国のお客さんの場合には、通常は、弁理士は特許管理人として、復代理人の選任等の不利益行為も行うことができます(特許法8条)。法律上は、お客さんが特許管理人の代理権の範囲を制限することができると定められていますが、現実にはこのようなケースはまずないでしょう。
所長に万が一のことがあったら、残務整理が終了後、moriappaさんが他の特許事務所に転職すればよいのでは。特許事務所は単なる翻訳者を採用することは比較的稀れですが、外内出願及び中間処理についての経験者でしたら、外国のお客さんが多い特許事務所でしたら、採用されると思います。
いろいろ教えていただき、本当にありがとうございました。特許法に則ったご説明で、とても為になりました。
心からお礼申し上げます。
頂いたご回答を参考に、今後のことを考えてみようと思います。
No.3
- 回答日時:
特許事務所に勤める翻訳者ということ。
多分、外国出願に関係して翻訳をなさっているのかと推察します。外国の顧客が小さな特許事務所に依頼をするのは比較的、珍しいので。さて、弁理士法は、弁理士又は特許業務法人以外が日本の特許庁における手続きを代理することを禁止していますが(弁理士法75条、79条)、外国の特許庁における手続きを代理することは禁止してません。ですから、所長先生に不幸があったとしても、日本のお客さんから了承をもらい、moriappaさんが外国の代理人宛てに指示レターを作成し、送付したとしても、また、新規外国出願を依頼しても、弁理士法には違反しません。ちなみに、この業界では有名なある会社は、東証一部上場企業をはじめとして多くの日本企業を顧客にして、世界中に特許出願や商標登録出願並びにその中間処理を「サポート」しています。
一方、日本の特許庁における手続きとしては、所長先生に不幸があった場合には、今まで受任している特許出願、審判請求等についての代理権は全て消滅します。特許庁が代理人が亡くなったことを知ると、特許庁からの拒絶理由通知等の書類は、直接、出願人宛てに発送されることになります。
このような事態を防いで、お客さんに迷惑をかけないためにも、所長先生が、知り合いの弁理士に復代理人を依頼するのが良いかと思います。復代理人は、出願人等の本人ではなく、代理人が選ぶものですが、本人の代理人となります。所長先生に何かあっても、復代理人の先生が今後の手続きをしてくれるでしょう。もっとも、復代理人の選任には、本人からの特別の授権が必要になります(特許法9条)。
また、弁理士一人の特許事務所で所長が高齢になった場合、知り合いの弁理士が経営する特許事務所と合併する場合があります。弁理士法の規制が緩和されて、一つの特許事務所が複数の拠点を持つことが認められているので、合併後も「従たる事務所」ということで、今までの事務所の住所で今の所長及びmoriappaさんがそのまま働くことも可能です。
最後に、裏技としましては、弁理士法には、弁護士法27条のような名義貸しを禁じる規定はないことを伝えておきます。
この回答への補足
丁寧なご回答、ありがとうございます。とても参考になりました。少し補足させていただきます。
冒頭部で「外国出願に関係して翻訳をなさっているのかと推察します」と推測して頂いたのですが、説明不足で申し訳ありません。うちのクライアントは約80%が海外のお客様で、主に海外から日本へのPCT出願を請け負っています。
私が現在行っている業務は、新規出願の日本語訳、国際出願翻訳文提出書や出願審査請求書などの作成と特許庁への発送処理、日本特許庁からの拒絶理由を英語に翻訳して海外のクライアントに発送することなどです。この場合は「日本の特許庁における手続きを代理」することになってしまうのでしょうか。なお、今のところは処理する前にTELで所長に確認し、翻訳文は所長に簡単にチェックしてもらっています。
No.1
- 回答日時:
まず、1.ですが。
http://www.jpaa.or.jp/care/care4.html
こちらにも有る様に、有資格者本人以外が業務を行うことは違法です。
万が一、トラブルに発展した場合は、法的責任だけでなく、民事にも発展する可能性があります。
http://www.nb-service.co.jp/03jirei/jirei.html
また、2.ですが。
無用なトラブルを避ける為には、継続案件の業務委託のフローを確立させておくべきでしょう。
報酬や依頼者の問題もありますので、法的効力を持つ遺言状の作成など、確実な方法を執るべきです。
統括法人である、日本弁理士会への相談なども考えては如何でしょうか。
参考URL:http://www.jpaa.or.jp/
的確なご回答をいただき、ありがとうございます。
やっぱりちゃんとしておかないとマズイですよね。
今のところ、一応所長の指示で作業していますし、最終的なチェック(アバウトではありますが)やサインは所長が行っているので大丈夫かとは思いますが、何か起きる前に対応しておく必要性を感じました。
弁理士会に相談したいのもやまやまですが、当の本人と奥様が事務所を続けるつもりでいるようなので、勝手にそんなこともしにくいというのが現状だったりします…。単なるパート労働者なので経営に口を挟むことができないのですが、頃合を見計らって、所長や奥さんと相談してみたいと思います。
どうもありがとうございました。
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