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動物実験で「電撃ストレス」を加えることがあると聞きますが、頻繁に長期間電撃ストレスを加えた続けた場合と、そう頻繁でない間隔で長期間電撃ストレスを加え続けた場合の2通りで、脳に何らかの変化は見られるのでしょうか?そのような実験(あるいはそれに近い実験)をもしご存知のかたいらっしゃいましたら是非お教えください。

A 回答 (1件)

ごきげんよう。



必ずしも質問者さんの求めていらっしゃる実験の話かどうかは確定できませんが、とりあえず、私が知っているなかから、質問文にありました条件に合っていそうな実験の内容について説明してみます。

以下、1950年代前後から実験系心理学の分野でさかんに行なわれていた、動物(主にラット)を使った学習と記憶の実験の話になります。


Duncan(1949)では、能動的回避課題(active-avoidance task)という課題を用いて動物を学習させました。まずシャトル箱(shuttle box)と呼ばれる2つの部屋のある実験装置にラットを入れます(下図)。

http://www.psy.plym.ac.uk/year2/psy221depression …

で、ラットのいる部屋の床に電気ショックを流すのですね(この電気ショックはあまり強くないものであり、質問者さんのおっしゃる「長期間の電撃ストレス」とは異なります)。ラットはその電気ショックを受けて痺れるのがイヤなので、電気ショックをを避けようとして、ハードルを飛び越えて部屋から部屋へと移動することを学習します。それぞれの動物は1日に1回、合計18日間、回避学習試行を受けました。
これが「自分から=能動的にショックを回避する」ということであり、ラットは「床に電気ショックが流れると部屋を移動する」ということを学習できたということです。

さて、この研究ではラットを9つの群に分けまして、そのうち8つの群を「実験群」、残り1つを「統制群」としました。
8つの実験群のラットは、各学習試行の後に、電気けいれんショック(electroconvulsive shock: ECS)を受けました。これは非常に強い電撃で、ラットの脳の広範囲に及びます。さらに、Duncanは、8つの実験群でそれぞれ、訓練試行終了時から電気けいれんショックECSまでの時間経過を、20秒から14時間まで変化させました。一方、統制群のラットは電気けいれんショックECSを受けませんでした。

 実験群:回避学習試行(ラットは電気ショックを避けて部屋を移動):1回/1日
      → 一定の時間経過(各群で20秒から14時間まで変化)
      → 強烈な電気けいれんショック

 統制群:回避学習試行(ラットは電気ショックを避けて部屋を移動):1回/1日


その結果、ラットの学習効果(回避行動の成績)はどうなったでしょうか?
統制群のラットは、18日目になっても学習された「床に電気ショックが流れると部屋を移動する」という行動を起こし続けました。それに対し実験群のラットは、回避学習試行の終了から電気けいれんショックまでの時間の長さによって、「床に電気ショックが流れると部屋を移動する」という行動を起こすかどうかの成績が変わったのです。回避学習試行の終了から電気けいれんショックまでの時間の長さが14時間のラットは、統制群とほぼ同様に、「床に電気ショックが流れると部屋を移動する」という行動を起こし続けました。しかし、回避学習試行の終了から電気けいれんショックまでの時間の長さが短いラットは、18日目でも「床に電気ショックが流れると部屋を移動する」という行動が学習されなかったのです。

実験を行なったDuncanの仮説と結果解釈としては、
 「電気けいれんショックは脳の神経活動に強く広範囲に影響を及ぼすものであり、
  脳内の神経回路での、学習による記憶の固定化(つまり行動を記憶すること)が
  電気けいれんショックによって阻害された。
  それによって、床に流れた電気ショックに対して隣の部屋に逃げることを
  覚えていることができなくなったのだろう(=回避行動の成績の低下)。
  ただし、電気けいれんショックを与えたとしても、
  与えるまでの間が14時間と長い場合には、
  記憶はすでに脳の中に定着してしまっているので、
  電気けいれんショックを与えたとしても影響は少ないのであろう」
ということです。

このDuncanの最初の実験に続いて、複数の研究グループがさまざまな課題を使って記憶の保持と電気けいれんショックとの関係について調べました。Leukel & Ransmeierは迷路学習パラダイム(maze-learning paradigm)を用い、Thompson & Deanは視覚弁別課題(visual discrimination task)を用いました。これらの研究全てで、動物の行動反応の保持が電気けいれんショックによって影響を生じさせることが報告されました。電気けいれんショックに続いて記憶が思い出せなくなる現象は、ヒトの被験者でも報告されています(Cronholm & Molander, 1958; Flesher, 1941; Williams, 1950; Zubin & Barrera, 1941)。


このような学習と記憶に関する動物実験は、実験内容や課題について不備があるなどの批判を受けつつも、進んでいきました(その詳細については、書ききれないのと私が詳しく知らないのとで、省略させていただきます)。

現在では、脳の活動に影響を及ぼすような電気けいれんショックを与えることで、動物の学習や記憶に影響が出ることは、記憶を覚えること・保持すること・思い出すことの3つの過程には、脳の神経回路の何らかの活動が関わっていることを示すものである、ということはだいたい認められるようになってきています。ただ、電気けいれんショックが「覚えること」に影響しているのか、「保持すること」に影響しているのか、「思い出すこと」に影響しているのかについては、まだ明確な結論が出ていなかったような。

また、記憶と学習といっても、そんなに単純なメカニズムではありません。学習課題や条件づけ反応によっても、それが生じるようになる神経回路メカニズムが違いますし、ひとつの学習課題で実験データが出たからと言って、それがすぐに「記憶メカニズムの全容解明」に結びつくわけではありません。まだまだ先は長いのです、ということですかね。


さて、私の回答と説明は以上なのですが、上の話が質問者さんのおっしゃる「電撃ストレス」と同じものかについては、やっぱり確証がありません。
「電気けいれんショックと記憶」の話以外にも、シャトル箱を用いた動物実験で床に電気ショックを流すのは、たくさん行なわれています。また、「ストレスと脳」の関係を研究している分野で「動物に電撃を与えてストレスを増加させると、ある物質が脳内に」などの話が出てくるかもしれません(↑の文は適当です)。心理学と脳に関係する分野は多岐にわたるもので、把握しきれなくて(苦笑)

情報の補足や訂正などがありましたら、また参ります。

この回答への補足

はじめまして。学習と記憶の実験について詳細にご記述いただき誠にありがとうございます。
この分野に関連して、以前どこかで見かけた(記憶が定かではありません。勘違いかも知れません)ような記憶があるのですが、

1.電撃ストレスを定期的に長期間(頻度不明)受けると(あるいは電撃ストレスに限らなかったかもしれません)
2.脳の特定の部位が萎縮することがある

という文章に出会ったような気がします。もしこのあたりのことについてご存知でしたら是非お聞かせください。
それにあわせて、もしそのような事実があれば、薬学の方で何らかの研究がなされているものとも推測します。(心理学の分野から少し逸脱しており恐縮ですが)研究がどの程度進んでいるものなのかもアウトラインでも結構です。是非お聞かせください。

補足日時:2005/12/13 17:45
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