A 回答 (3件)
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No.3
- 回答日時:
推測でしかありませんが、この句中の「硝子戸の中」という言葉はインターテクスト、漱石の随筆集『硝子戸の中』を「本歌取り」したものではないでしょうか。
「硝子戸の中」という言葉を聞けば、おそらく誰もが漱石の同名の作品のことを思い出すでしょうし、その言葉によって、本の中にこめられていた世界の光景、不思議なまでに静謐な世界、その底にひっそりと埋まっている〈死〉へと、読者を誘うように思われます。
漱石の『硝子戸の中』は、明治末、漱石のいわゆる「修善寺の大患」以降、胃潰瘍を再発し、しばしば病臥を繰り返していた漱石が、小康状態を得た大正四年に新聞に連載した随筆です。
「小さい私と広い世の中とを隔離しているこの硝子戸の中(なか)」の世界をつれづれ書こうというものです。
病床から見える世界、ヘクトーという犬の死、訪れた「回復の見込みのつかないほど深く」傷ついた女性の話、長兄の死後にたずねてきた元芸者の話、そうして最後にたどりつくのが、幼い頃の母の思い出、というか、愛された記憶です。そうしていずれの話も「死」に引き寄せられていく。その死を漱石は「死は生よりも尊とい」と感じているのです。
この作品は、こんなふうに終わっていきます。
「家も心もひっそりとしたうちに、私は硝子戸を開け放って、静かな春の光に包まれながら、恍惚とこの稿を書き終るのである。そうした後で、私はちょっと肱を曲げて、この縁側に一眠り眠るつもりである。」
句には「足袋の裏」という言葉も出てきます。足袋の裏が見えるのは、人が寝ているときです。漱石は「硝子戸を開け放って」とは書いていますが、この足袋の裏のもちぬしは、漱石その人ではないか。そうして、ここで言われる「幸福」とは、近いうちに自分もその仲間入りをするであろう死者たちの記憶をたどっていく「幸福」ではあるまいかとわたしには思えるのです。
No.2
- 回答日時:
漱石の「硝子戸の<うち>」という内部からの視座であるのに対し、綾子の句の方は「硝子戸の<なか>」という、外から中を垣間見る視点であり、そこからは「足袋の裏」が垣間見られるという印象を受けますが、果たしていかがでしょう。
綾子には「硝子器を清潔にしてさくら時」(「冬薔薇」所収)という句において、硝子の器は汚れやすく曇りやすいだけに、清潔を心がけるという女性心理を描いていますが、そのみえるものと見えないものとの間(あわい)の中で、仄かに「幸福」が浮かんでくるという、そのような「硝子戸の<なか>」なのかも知れません。
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