■個室を持ちたがる子どもの心理
子どもが個室を持ちたがる心理は、心の成長と密接な関係があるそう。
「小学校低学年頃までの子どもにとって、親や家族に守ってもらえることはとても重要です。親は絶対的な影響力を持ち、困ったときに親が“大丈夫”と言えば安心できるのがこの年頃です」(吉田さん)
“ギャングエイジ”と呼ばれる小学校中学年頃になると、子どもだけの集団で遊ぶようになり、友人との関係を大事にする傾向が生まれるとか。
「『前思春期』となる小学校高学年は、思春期の前兆がみられる頃です。大人に対して批判的になり、親の言葉や守りのみでは安心できなくなります。この頃から少しずつひとりの時間や空間を求めるようになり、中学生になるくらいで思春期が始まります」(吉田さん)
小学校高学年以降は、子どもから大人に移り変わる時期だ。親と違う自分を模索し、“自分作り”の基地となる自分だけの空間(個室)を持ちたがるようになるという。
■個室を与えることのメリット
子どもにとっての個室の魅力や、与えることのメリットとはどのようなものだろう。
「子どもは自分の空間で寝起きしますが、そのほかは宿題をしたり遊んだりと、それまでの生活と大きく変わることはありません。自分のペースで過ごせる点が子どもにとって一番の魅力ですね。親からすると、子どもの精神的自由を尊重しながら自立を促せることが、個室を与えるメリットといえるでしょう」(吉田さん)
個室を確保できない場合どうすればよいか。
「日本の住宅事情では、個別の空間を確保することが難しい場合もあるでしょう。その際は子ども専用のコーナーを作るなど、プライバシーの確保ができるとよいですね」(吉田さん)
親は「気軽に入らない」「勝手に私物に触れない」など、最低限のマナーを持ち合わせる必要もあるとのこと。
■個室を与える際に留意すべき点
自分だけの空間を持ちたがる年齢や程度は、子どもによって異なる。好機を捉えるのも重要だ。
「“中学生だから個室を与えよう”と親が準備をしても、子どもによっては心細く感じたり、不安定になってしまうこともあります。しっかりと話し合い、時期を見計って持たせるのがよいでしょう」(吉田さん)
個室を与えたときによく見られる子どもの変化を挙げてもらった。
「親の目が届かなくなるので、生活がだらしなくなり、好きなことを先にして宿題を後回しにするなどの問題が生じることがあります。さらにこの年頃の子どもは、親に何でも正直に話さなくなり、嘘をつくことも出てきます」(吉田さん)
親は見かねて口を出したくなりそうだが……。
「個室を与えておきながら生活を細かく取り締まろうとすると、子どもは精神的自由を制限される上、親の態度に矛盾を感じ反発することが予想されます」(吉田さん)
そんな時にはどのように向き合うべきか。
「親は子どもを信頼し、大目にみる寛容さを持ちましょう。介入すべきかどうかは、その時どきで見極める必要があります」(吉田さん)
「とはいえ……」と吉田さんは、個室を与えるまでの親子の関係性について補足してくれた。
「個室を与えるには、親子の信頼関係や対話ができる関係性を構築できていることが大前提です。それらがないと子どもが引きこもってしまったり、心配なときに話し合いなどで修正できなくなることがあります」(吉田さん)
子どもが小学校中学年頃になったら、近い将来個室を与えることを踏まえ、改めて子どもと向き合うべきかもしれない。個室を与えた後は、子どもの自立を助けるためにも、成長を信じ気長に見守ることも大切だろう。
●専門家プロフィール:吉田美智子
臨床心理士。公認心理師。東京都スクールカウンセラー。東京・青山のカウンセリングルーム「はこにわサロン東京」主宰。自分らしく生きる、働く、子育てすることを応援中。オンラインや電話での相談にも対応している。
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