
■シロアリとはどんな生き物なのか
都会で普通に生活をしているだけでは、シロアリの姿を見る機会はほとんどない。まずは、その特徴について伺った。
「 “アリ”とは名ばかりで、実はゴキブリの仲間です。集団生活をしていて“女王”もいるので、ハチ目アリ科の“クロアリ”と混同されやすいですが、シロアリはゴキブリ目シロアリ科と、アリとは全く異なる系統の虫なのです」(伊藤さん)
なんと、シロアリはアリですらなかった。しかし、学術的な違いを言われても、ピンと来ない。シロアリとアリは、具体的に何が違うのだろうか。
「アリは肉食の虫ですが、シロアリは死んだ植物を主食とする草食。そのため、クロアリはシロアリの天敵です。また、シロアリは太陽の光に弱いため、移動の際には“蟻道”と呼ばれる通路を作り、その中だけで生活します。繁殖活動をする羽アリは外に出ることができますが、自ら飛んで移動する能力はなく、風に乗って滑空する程度です」(伊藤さん)
他にも、体がくびれているクロアリに対しシロアリの体は寸胴だったり、頭が異様に大きい種類のシロアリがいたりと、よく見ると異なる点も多いそうだ。
■自然界におけるシロアリの役割とは
家の軒下や壁の中に潜むシロアリは、誰もが知るところの“害虫”である。しかし、「そんなシロアリにも知られざる一面がある」と伊藤さんは言う。
「実は、シロアリは森林を守る役割を持っています。主食が死んだ植物なので、倒木や枯れ草などを分解して森の栄養にするという、自然のサイクルの一端を担っているのです」(伊藤さん)
「森では枯れた植物が次の植物の栄養になる」というのはよく聞く話だが、そんな重要な役割をシロアリが持っているとは……。
「シロアリの種類が多いほど森が健全だとする研究結果や、シロアリが繁殖することで森の危機を救ったとする研究結果も発表されているほどです。日本は、国土の3分の2が森林という、世界有数の森林国家。そのため、シロアリの被害にあいやすい土地柄ともいえます」(伊藤さん)
害虫扱いされているシロアリも、住む地域が変われば救世主ということだ。熱帯の森林は、世界の森林の約47%を占めているという。その森林を守るシロアリは、地球にとってなくてはならない存在なのだ。
■世界のシロアリ
日本に住むシロアリで、家に被害をもたらす代表的なシロアリは、“イエシロアリ”と“ヤマトシロアリ”だ。最近では、外来種である“アメリカカンザイシロアリ”の被害も増えてきている。では、家に被害をもたらさないシロアリにはどんな種類がいるのだろうか?
「日本には、あまり知られていない種類も含めて20種以上のシロアリが生息しています。面白いのは、沖縄などに住む“タイワンシロアリ”ですね。日本で唯一、巣の中でキノコ栽培をするシロアリで、キノコはエサとして利用されています」(伊藤さん)
日本には、それだけ多くのシロアリが生息しているだけでなく、キノコを栽培する種類もいるなんて驚きだ。では、世界でみると、どんなシロアリがいるのだろうか?
「世界的によく知られているのは、“蟻塚”をつくる“ツカシロアリ亜科”ですね。よくテレビなどで目にする蟻塚は、実はクロアリではなくシロアリの仲間の巣なのです。また、オーストラリアの“ナスティテルメスシロアリ”の女王は、なんと寿命が100年ともいわれており、“長寿虫”として知られています」(伊藤さん)
シロアリは、世界の生態系においてなくてはならない“縁の下の力持ち”で、個性的な種類が数多く存在するユニークな生き物であった。
だが日本においては、「家を食い荒らす害虫」に他ならない。日本人がうまくシロアリと折り合いをつけるためには、被害にあう前に予防することが大切だ。その生態を理解した上で、専門の駆除業者と一緒に対策するとよいだろう。
●専門家プロフィール: 伊藤 真揮(いとう なおき)
あなたの街の近場のプロフェッショナルを探せる「ファインドプロ」の編集部に所属するライター。実際に現場で活躍しているスタッフからの専門的な声を参考に、シロアリを始めとした様々な害虫や、害獣の駆除・予防に関する幅広い情報を発信している。