少し極端に聞こえるかもしれないが、全く同じケースで労働者と使用者が争った場合、どちらが優位になるのかはっきりと答えられる人はそこまで多くはないのではないだろうか。
そこで今回は労働時間がどの様に定義されているのか。また労働時間と待機時間の境界線をどの様に引くべきか、富士見坂法律事務所の井上義之弁護士に伺った。
■労働時間の法的な定義
まずは前提条件として欠かすことができない、法律上の労働時間の定義を聞いてみた。
「最高裁平成12年3月9日判決は、労働基準法上の労働時間について、『労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない』と判示しています」(井上義之弁護士)
ポイントは使用者の指揮命令下にあるかどうかとのこと。
■待機時間は労働時間か?
では冒頭で触れた通り、実作業をしていない待機時間も労働時間とみなされ、賃金が発生するのかどうかをたずねてみた。
「例えば、待機場所が会社から指定されており、かつ、呼び出し電話への緊急対応などが義務付けられているような場合、労働からの解放が保障されているとはいえませんので、使用者の指揮命令下に置かれていると評価されることになるでしょう。こうしたケースでは、緊急対応に従事している時間はもちろん従事していない時間も含めて労働時間と扱われます」(井上義之弁護士)
やはり指揮命令下にあるかどうかが重要のようだ。
■社用携帯を持たせ、常時電源を入れさせた場合の待機時間は労働時間か?
では緊急時などに備え、労働者に社用携帯を持たせ、常時電源を入れておくように指示した場合、365日24時間、すべて労働時間と扱われるのだろうか。
「いいえ、そうではありません。たとえば、勤務時間後であるため労働者に対する場所的・時間的拘束がなく、かつ、会社の呼び出しに応じて実作業に従事する頻度も著しく低いような場合については、社用携帯を持たされていたとしても全体が労働時間とはならない可能性が高いでしょう」(井上義之弁護士)
社用携帯を持たせている企業は少なくない。企業側が注意すべきことはあるだろうか。
「実作業をしていない待機時間が労働時間にあたるかどうかは、当該事案の事情や裁判例の傾向などを踏まえた専門的な判断が必要になるケースも多いと思います。困ったら、専門家に相談するのが良いと思います」(井上義之弁護士)
専門家プロフィール:弁護士 井上義之(第一東京弁護士会) 事務所HP ブログ
依頼者の置かれている状況は様々です。詳しい事情・希望を伺った上で、個別具体的事情に応じたきめ細やかなサービスを提供することをモットーに業務遂行しております。
記事提供:ライター o4o7/株式会社MeLMAX
画像提供:AdobeStock