■神様と頂く大事な料理?
そもそもなぜお正月におせち料理を食べるのだろう。
「お正月は一年の家族の幸せを祈るために年神(としがみ)様をお迎えする行事です。年神様というのは農耕の神様とも祖先の霊ともいわれ、元旦に家々へ幸せをもたらすために降りてくる新年の神様です。おせち料理はその年神様へのお供えの料理であり、家族の幸せを願う縁起物でもあります。おせち料理を年神様と一緒に召しあがることで一家の幸せを祈ることになります」(村田さん)
そのため、お正月に使う「祝箸」は末広がりの八寸(約24cm)で、片側を人間が、もう片方は年神様が使うように両端が細くなっているという。神様と新年を祝う食事をシェアしているのかと思うと、改めて有難みが増すのではないか。
■おせち料理が持つそれぞれの意味とは?
おせちには普段あまり食べない、いろいろな種類の料理がある。それぞれ意味があるのだろうか。
「それぞれに謂(いわ)れがあります。例えばお雑煮は年神様への供え餅を分配してご利益を頂戴するためのお料理で、元旦に初めて汲む若水(わかみず)で煮るのが習わしだとか。紅白蒲鉾は日の出の象徴で、めでたさの紅と神聖さの白を意味しています。栗きんとんは黄金色の財宝に見立てて豊かな一年を祈願。黒豆はまめまめしく暮らせるようにとの願いが込められています」(村田さん)
まめまめしくとは、「まめ=誠実」のほかに、「健康である」という意味もあるそうだ。
「田作り(ごまめ)は豊作を願い、畑に肥料として小魚をまいたことから名付けられ、なると巻の渦巻きは無限、成長、生命を表しています。昆布巻は『よろこぶ』にかけていて、健康長寿の願いが込められています」(村田さん)
冷蔵庫のなかった昔、先人たちは日持ちする食べ物にさまざまな願いを込めたのである。
■特色ある地方のおせち
地方色も気になるところだ。
「全国には郷土料理として伝わるさまざまなおせち料理があります。石川県の『ベロベロ』は溶き卵を寒天で固めたものです。見た目がべっ甲(亀の甲羅)に似ていることからその名がついたという説があり、おせち料理以外でもお祝いやおもてなしの席で出るおめでたい料理です」(村田さん)
さらに関西ではこんな料理がおせちとして登場する。
「棒ダラの煮物は関西(京都)で親しまれているおせち料理です。古くから主に北海道や東北で製造されていたものですが、関西にも運ばれて保存食として広まっていきました。『たらふく(鱈福)食べられる』という語呂(いわれ)があることからおせちに採用されているのではないでしょうか」(村田さん)
ユニークな郷土のおせち料理は、帰省したときの楽しみでもある。
■おせち=お重にとらわれない盛り付け
おせち=お重のイメージが強いが、そのお重への詰め方にも意味があるという。
「伝統的なお重詰めには、福を重ねるという意味が込められています。詰め方にも種類があり、幸せが中央から八方に広がるようにと願いを込めた『八方詰め』、祝いの席で使用する『升』に見立てた『升形詰め』などです」(村田さん)
お重への詰め方に伝統がある一方で、お重を離れた盛り付けも最近は増えている。
「現代ではきっちり詰めるお重詰めではなく、一人分のおせち料理を小さめのお重の一段に盛り付ける『銘々盛り』や、お皿に盛り付ける『皿盛り』のような見せ方もあります。盛り付けるのも簡単ですので、今までおせち料理を準備したことがない方にもチャレンジしやすいと思いますよ」(村田さん)
手持ちの小皿を利用したり、大皿に盛りつけるスタイルであれば、お重を持っていない人でもおせち料理を素敵に並べることができそうだ。
「見通し明るく」の意味があるレンコンや、子孫繁栄のカズノコなど、好みの一品をいただきながら、新年の楽しいひと時を過ごしてほしい。
●専門家プロフィール:村田真由香
株式会社紀文食品第二グループ統括室、広報部